56:そうやって私の都合に合わせてくれる。
会話の内容としては、ほとんどは当たり障りなく――でも私は「後輩くんって好きなひととかいるの? 初恋は?」とか、そんなことをぶつけてみました。
中学のときにそれっぽいのかなという相手はいたけど、ぼんやりとしててよくわからない――彼は、そんなように返してきたと思います。
テスト前の貴重な時間なのに、よくつきあってくれました。いまでも、そう思います。
そして、いまも、彼はそういうところがあります。
自分の都合があるのに、私の他愛ない都合や気持ちに、とても合わせてくれるところがあるのです。
やっぱり、後輩くんだった彼は――ずっと彼なんだなあと、思い返しても思います。
そして、男女ともにデザインは共通の学園のブレザー。
自分も彼もおんなじ制服を着ていることに、――無性にどきどきしていました。
十分ほど経とうとしたところで私は、「あっ、テスト勉強中だもんね。ごめんね邪魔してー。テストがんばってね!!」と言い残し、ひらりと深緑のタータンチェックのスカートを翻して、駆けるように後輩くんと別れました。
なんとなくそのまま素直に家に帰る気になれなくて、近所の図書館に寄ってはみたものの、なにもやる気が起きず、ただそのまま意味もなく帰宅したことだけをよく覚えています。帰ったときには、すでに暗かった。――彼ももう帰ったのだろうか、などと思いながら。
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