35:それは自分でも度し難いほどの彼への勝手な本音でしたね。
……でも。
後輩くんが、演劇部に入るなら。
私も、そのまま演劇部員でいればよかった。
向こうで過ごしているすがたとか、見てみたかったなあ。
っていうか、意外と演劇とか合うんだなあの子は、なんて。
どうふるまってんのか。――こっちにいるより、ハキハキしてんじゃないの?
けっきょく、彼が長い時間を過ごすのはこっち(文芸)ではない。
あっち(演劇)なんだよな。
それは、もちろん、必要に駆られてというのもあるだろう。彼も、役がある。稽古があり、芝居についてお互い意見を言い合う時間がある。片づけがあり、基礎練もある。リハーサルの緊迫感ったらすごい。みんなで、つくりあげなくちゃ。
対して文芸なんていっしょにいたってとくにやることはない。べつに、私が入部してきたときみたいに月に数回の活動でも充分こと足りるのだから。文芸は、ほんとはひとりでやるもので、こんなに部活をしているほうがおかしいのだから――。
……うちじゃ、後輩くんを、引き止められなかったか。
引き止めるというのも変か。
でも、彼は、……やっぱり文芸よりは演劇のひとだったのだなあ、
と。
……そういう、勝手な想いが。
むくむく、むくむくと。
暗雲のように私のなかにたちこめはじめたのも、たぶん、彼と私がいっしょに経験できた生涯たった二回の文化祭、その初回のこの時期だったように思います。
そして私はほかの部員にはこの思いを抱きませんでした。
彼にだけ、抱いていました。
思い返せばこのころから私はしきりに、友達と恋バナになって好みのタイプとかの話になったとき、「年上がいいな! やっぱ頼れるし。年下はやっぱ精神年齢の関係とかあって無理でしょ!」などと言うようになっていました。
つまり――つまりは私のほうはこのときいったんすでにそんな感じだったのですけど、……そのことを理解したのさえ、それこそ、彼とつきあいはじめて二年くらいしてからのことでした。遅い。とことん、遅い。
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