4:あのとき私の「わかってしまう」という自信は幻想だったと打ち砕かれましたね。

 自慢じゃないですけど、私はいまよりもずっと若い十代や二十歳そこそこのころ、ひとを把握したり深く柔らかいところを理解することに一定の自信とある種の実績がありました。

 そりゃひとはみな他人なのですべてを読み取れるエスパーではないですけど、そのひとの気持ちをいろいろと想像したり類推して、ある程度のことを察して、そしてなにかどろどろしたりもやもやした「本音」をぶつけられても過度には驚かない、という特殊スキルをもっていた――はず、でした。


 そこらへんの自信――というか幻想は、じつはこのひとがぜんぶ壊してくれたんですよ、いったん、完膚なきまでにぜんぶ。

 というのは、若干は惚気成分が含まれてしまうことは関係性の特質上ご容赦願いたいのですけども――彼が高校卒業、そして大学入学したあとに、私から見ていると高校よりもずっと楽しそうに学生生活を送っていて、いつのまにか酒や煙草も覚えてて(ちなみにいまは禁煙したようです完全に)、

 元先輩の私がノスタルジックに、



「ああ、この後輩の男の子は、これからもっとずっと私なんかより遠いところで、こうやっていきいき生きてくのだなあ……私なんかとも、いつまで会ってくれるんだろ。しょせんは高校時代にいっときかかわりのあった、先輩でしかないもんね」



 とか思ってた矢先に告白されました。なんか彼も予期せぬ泥酔をしてたらしいですが。すさまじい爆弾というかもうまずは驚きで頭が真っ白でした。

 いやあの、いや……いつ惚れてたん? いやほんといつ? いつ????? とさすがにそこまでの好意を抱かれたらぜったい気づくはずとか思っていた二十歳そこそこの私の青い自信は、そこであえなく幻想となり打ち砕かれたのでした……。

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