外伝 幻の食材【後編】

 我が家でピンクブルルを調理するとき、一悶着起こる。


「この食材を、全部渡しなさいよ!」


 も当然のように、クリオネが俺の狩ってきたピンクブルルの肉を、勝手に持ち帰ろうとしている。まさかこの肉を食べる日に、彼女が遊びに来るとは、想定外の出来事であった……。


「勘弁してくれ……今からみんなでこれを美味しく頂くので、邪魔しないでくれよ……」


 幼子を諭すように、お願いする。


「それで幾ら払えばいいの?」


 どこぞの大富豪のように、金さえ払えば全て解決すると思っているのにむかついた。


「良く考えてみてくれ。お前がこの肉を王家の食卓に持ち込んだとするぞ。彼らにこれを食べさせれば、必ず喜ばれるわな。しかし、この食材をクリオネが調理させて貰えるという確信はあるのか? もし俺が宮廷の料理長なら、こんな珍しい肉は、自らの作品として仕上げたいと思うぞ」


「そ、それは確かに……」


「そうだろう! クリオネは涎を垂らしながら、料理長の手伝いをさせられるんだよ。それなら、いまこの食材を思うままの料理を作り、俺たちと食卓を囲むのが一番だと考えるな」


「そうよね……じゃあ、おっちゃん、早く手伝いなさい!」


 とんだちょろインである――


 俺はやれやれとため息をつき、クリオネと一緒に台所に向かう。


 クリオネが作る料理は、どれも素晴らしい出来だと、隣で野菜を刻みながら感心する。俺がもしこのピンクブルルの肉を調理しても、焼くか揚げるぐらいしか思いつかない。クリオネは、家にある他の食材を使い、宮廷料理へと仕上げていく。


「さっさと手を動かしてよね」


 これさえなければ可愛いコックサンなのにと思いつつ、残念エルフの手伝いを続けた。


 先程まで只の肉塊だったピンクブルルが、見事な料理に変わる。テーブルには何種類ものピンクブルルを使ったフルコースが所狭しと並ぶ。


「おっちゃんが、ピンクブルルを狩ってきたときは驚いたが、この料理をクリオネが作ってくれて最高のディナーになった」


 レイラがもう早く食べようと、グラスを掲げる。


「ピンクブルルって珍しい食材だって、隊長が羨ましそうに言ってました」

 

 テレサが皆のジョッキに酒を注ぎながら話す。


「プリンの次に、価値がある」


 ルリがそう言って、したり顔をした。


「クリオネとおっちゃんに感謝、乾杯ーーーーーーーーーーーーい!!」


 レイラが乾杯の音頭を取る。


「「「「乾杯!!」」」」


 木製のジョッキを高々と上げで。俺たちは乾杯した。


「う、旨い!! 」


「本当に美味しいですね。口いっぱいに肉汁が広がるのに、全く獣臭さを感じません。しかもなんてきめ細やかな肉質なんでしょうか!」


「うまうま」


 三人の雛鳥たちが、思い思いの感想を述べる。


「当たり前じゃないの、私が作ったんだから美味しいはずでしょう!」


「クリオネは天才料理人だな、まあこの肉があってこそ、それが引き立つのだが」


「おっちゃんに文句を付けたいけど、今回の肉に関しては、私が調理しなくても美味しくできたはずね」


 珍しくクリオネが、謙遜したかのように意見を述べた。


「んふ~~♪ 明日から他の肉が食べられなくなりそうです」


「うま☆うま」


 雛鳥たちはテーブルに並べられた料理を堪能していた。


「おい、おっちゃんはこの肉が美味しくないのか?」


 レイラの問いに、俺の目が少しだけ泳いた。


「いや、クリオネが作る料理は最高だぞ」


 生返事をしつつ、目の前にあるステーキを大きく切り分ける。


「それなら、もっと美味しそうな顔をしなさいよ!」


 クリオネは怪訝そうな目を、こちらに向けてきた。


 俺はフォークに刺した一切れの肉を口に放り込む……そしてそれを静かに咀嚼そしゃくする。


「これって、完全に豚肉だよな……」


 俺は消え入りそうな独り言をつぶやき、口の中に残った肉を飲み込んだ――




※ 前編コメントで、ネタバレ突っ込みが無くてホッとしました。 豚肉って安くても美味しいですが、不思議と(牛肉と違って)テンションが上がらないんですよねwww


牛肉>>>鳥肉≧豚>魚 (自分的な、お肉ランキング)どの食材も、揚げればご馳走になりますが♪

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