外伝 震える夜
一般家庭に温度計など置いていない世界なので、平均気温は分からないが、体感的に一年を通して二十度を下回らないと感じる。しかし、この数日雨が続いたせいか、あまりにも寒くて、夜中に目覚めてしまう。予備の毛布を棚から取り出そうとしたら、
俺は寒さに震えながら、あの日のことを思い出す――
いつもなら荷運びの疲れで、朝まで起きないのに、あまりの寒さに夜中に目覚めてしまう。雨音と共に、壁の隙間から冷たい風が漏れてくる。薄っぺらい毛布一枚で安眠出来たのも、この地が温暖だったからである。たこ部屋のような環境で、もう一枚毛布をすぐに手に入れることなど出来ようもない。
俺は寒さに震えながら、薄汚い毛布にくるまって目を閉じた。しかし、冷え切った身体で、睡魔が襲ってくることは無かった……。寒さで身体が震え、やるせない気持ちになる。そんな俺の気持ちとは裏腹に、同部屋の男たちから、五月蠅いぐらいのイビキが聞こえてくる。この住処に落ち着いた当初は、この騒音に頭を悩ませたが、一月を過ぎると気にもせず爆睡する自分が居た。
こんな寒い環境で、良く寝る物だと感心してしまう。流石にこの寒さまで順応するとは思えなかった。尿意を覚えた俺は、取りあえずトイレを済ますことにした。
冷たい雨が降りしきる中、外に設置している離れの便所まで走って行く。真っ暗な便所も長い間使っていると、問題なく使用することに慣れてしまっていた。このまま人夫のような生活を、何年も続けるかと思うとゾッとなった。ブルルと身体を揺らし、用を足し終える。
部屋に戻り、この冷たくなった部屋で、のんきにイビキを掻いて寝ている同僚に目を向けた。そして、その姿を見た俺は苦笑する。
此奴ら服を重ね着して、眠っているよ……。
俺は寝床で衣服を重ね着して寝るなどという発想は、全く思いつかなかった。日本というあまりにも豊かな環境で暮らしていたので、寝間着一枚で寝るのが常識となっていた。俺は小さな棚から、柔らかめの普段着を重ね着し、冷たくなった素足に、靴下を被せた。
そして毛布にくるまると驚くほど暖かくて驚いてしまう。屋根を叩きつける雨音を聞いているうちに、今日の疲れと共に睡魔が襲ってきた――
働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~ 山鳥うずら @yamadoriuzura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。働くおじさん異世界に逝く~プリンを武器に俺は戦う!薬草狩りで世界を制す~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます