第123話 可愛ければ正義

 クラリスの相手はレイラたちに丸投げし、俺は夕食の買い出しに出かけることにした。いつもならソラが喜んでついて来るのだが、クラリスを連れながら買い物をすると面倒事を起こしそうなので、ソラを家に置いておくことにした。ソラが愚図るのが想像出来たので、レイラがソラと遊んでいる隙にこっそりと家から抜け出した。


 夕食の食材を選ぶためにゆっくりと市場を巡る。まだ夕飯の買い物時間でもないのに、沢山の荷物を抱えた人たちが行き交い市場は賑わっていた。


「おい、なんだよ……今日はソラちゃんを連れていないのかよ」


「残念ねェ~、これはお土産に持っていっておくれ」


 なじみの店で買い物をするのだが、どの店でもソラがいない理由を聞かれてしまい、ソラがタリアの町の一員になっていることを痛感させられた。買い物の邪魔だと思うことも多かったが、近くに居ないと寂しいものだ。そんなソラの好きな果物を多めに買いそろえて帰路につく。


 玄関の扉を開くとソラが待っていた。犬みたいな奴だなと思いながら抱き上げようと手を伸ばすと、するりと俺を避け、ソリに乗せていた果物を咥え走って逃げていく。レイラがしていたことを覚えたみたいだ。もう一つ、果物を狙いに来たとき、頭をコツンと撫でてやると翼がぺたんと小さくなった。


「仕方がない奴だな……」


 俺はソラに向けて果物を放り投げた。果物はソラには届かずレイラが横取りをした。彼女はこれ見よがしに果物にかぶりつく。


「キュピピピピーーー」


 ソラがレイラに果物を返せと怒っている。それを横目で見ながら、買ってきた食料を冷蔵庫に詰め込んだ後、クラリスに声を掛けた。


「クラリス、風呂の準備が出来たから入ってこい」


「私は最後で良い」


 断られはしたが、もう一度、風呂に入ることを勧めた。けれども頑なに一番風呂を拒むので、仕方なく自分が風呂に入ることにした。ルリとレイラは当たり前のように俺に続いて浴室に入ってきた。「キュキュー」ソラも呼びもしないのに、浴室に飛び込んでくる。


「御子様と一緒に湯殿に入るとは何事だ!?」


 クラリスは風呂場の前で悪鬼の如く怒りをあらわにした。


「それならお前も入って来いよ!」


 湯船につかりながら軽く挑発すると、服をその場で脱ぎ捨て風呂に入ってきた。こう堂々と服を脱がれてしまうと色気など全く感じられない。こいつも残念美人の一人だったと、深い溜息を吐いた。引き締まった身体に大きな胸、それに可愛い×××らしきものが股下に付いていた。


「お、お前男だったのか!?」


 俺たちは別の意味でも彼女に驚かされてしまう事になる――


「そもそも竜族に雌雄の性別はない、齢を重ねて雌雄を決める……人間みたいに一年中盛っている下等な生き物と比べるな」


「「「ふはーーー」」」


 その爆弾発言に衝撃を受けた。


「じゃあ、ソラは!」


 湯船に浸かっているソラを抱き上げ確認する素振りをした。


「おっちゃん、それはアウトだろ!」


 雛鳥たちは俺にレッドカードを突き付けてくる。


「ソラは俺のお嫁さんだもんな」


「キュキュキュ~」


 YESともNOともとれる返事を返してきた。


 この後、裸で暴れ回るクラリスを止めるのに俺たちは難儀した。もちろん俺は風呂から出ると、裸で正座をさせられるのだが……。

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