第124話 ドラゴンと三匹の雛
「「「「「
「人間国では酒を飲むかけ声は、全員参加がお約束なのでやり直しだ」
「「「「「「
クラリスは何故か不満そうな顔をしながら、乾杯の音頭を一緒に取った。
「クーッ……旨い!! 風呂上がりの冷酒は染みるぜーーー」
レイラたちはジョッキについだお酒を一気に飲み干す。
テーブルには、天ぷら、唐揚げ。カツレツ、サラダ盛り、エビフライと雛鳥を満足させる料理を並べ、招かざる客の歓迎会をした。
三匹の雛鳥たちとは裏腹に、つまらなさそうに食事をとるクラリスに酒を勧めた。
「この国の酒も、捨てたもんじゃないぞ」
「それは命令ですか?」
と、言われてしまう。サラリーマン時代に、上司が部下に酒を無理に飲ませている場面を多々見ていたが、まさか自分がその当事者になろうとは思いもしなかった。
「酒が嫌いなのか?」
「嫌いではありませんけど、貴方からお酌をして貰う必要はないです」
キッパリと断られ、飲みニケーションの難しさを思い知る。否、彼女との関係を構築出来ていないだけなのだが……。
そんなやりとりを見ながら
「竜族ってのはそんなに小せえ生き物なのかよ」
ジョッキで酒をあおりながら、クラリスを挑発するかのように笑い飛ばした。
「なっ!? 私が小さいですって……この猿が!!」
「小さいから、小さいと言っているんだよ、何が気に入らないか知らないが、口に出さないと伝わらないぜ」
「分かりきったことです! 御子様の扱い方が、全部、納得出来かねます。べたべたしまくるなんて無礼にも程があります」
「じゃあお前も、べたべたしてやったらどうだ」
レイラは足下で食事を強請っているソラを拾い上げ、クラリスに渡そうとした。
「フシャーーーーーーアア!」
ソラが威嚇音をたてる。
「み、御子様~~~~~」
クラリスが泣き崩れる姿に、食卓が笑い声に包まれた。
「幸せを貴方にあげる」
いじけているクラリスに、ルリがプリンを差し出した。彼女はそれを訝しげな表情で受け取り口に入れた。
「んふ~~~~~~~~~~っ。何これ!? 甘くて柔らかな味わいが、口一杯に広がってくる~~」
彼女は、一瞬でプリンを食べてしまう。
「これはおっちゃんが発明した! プリンという料理。この奇跡の美味さに震えろ! ほら! このお代わりが目に入らぬか」
「ぐぬぬぬぬ!!」
「ほわわわ、美味しい」
ルリはこれ見よがしに彼女を煽る。
「お代わりなどい、いらぬ……」
「そうか、いらないなら仕方がないな~」
俺はそう言って、台所から四人分のデザートを運び込んだ。
「プリンアラモードだ!」
ルリの目がきらきらと輝くのが分かる。
「こんな美味しいのをいらないとは、竜族はよほど良い物を食べてて羨ましいぜ」
レイラがこれ見よがしに、プリンをスプーンですくい頬張った。
「いつ食べても、おっちゃんの作るプリアラは絶品ですね!」
そう言って、皿からアイスをすくいあげ上げ、それをそっと口に運ぶ。
クラリスはそれを見て唾を飲み込んだ。
「プリンはいらぬが、そのプリンアラモードというのは別腹だ……食べてやっても良い」
別腹の使い方は間違っていると思ったが、これ以上場の空気を壊す必要もない。
「これはクラリスの分だ」
皿の上にプリンとアイスを載せ、その周りを果物とクリームで着飾ったプリンアラモードを彼女の前に置いてやる。
「ふわわわわ~」
なんとも可愛い声を出しながら、プリアラを堪能している。
「プリンも美味しかったが、甘酸っぱい果物とプリンを同時に食べるとなんとも雅な味になるのか」
彼女は皿の上で溶け始めたアイスをスプーンですくい食す。
「んはぁ~~~冷たいっ、この口内で溶ける氷の柔らかさって何???」
「この尊きデザートにひれ伏せ」
ルリが俺の分のプリアラを食べながら、クラリスにマウントを取っていた。
ぎくしゃくした関係ながら宴会は続き、夜中を過ぎても延々と家の光がともっている。どちらに転ぼうとも、お互いが幸せになる未来は見えないが、今日だけは同じ幸せを共有しあう同士であった。
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