第122話 会談

 玄関の呼び鈴がカランと鳴ると、居間に緊張が走った。いつもならソラが玄関まで走って、一番にお客を迎えに行くのだが、今日は完全に違っていた。俺がソラを抱えて、レイラ、テレサ、ルリが、を迎えに行く。


 玄関先に立っていたのは、二人のだった。一人はガッチリとした筋肉で閉まった大柄な男性だった。青い髪の毛を短く狩り、鼻の下に立派な髭が強さを引き立てていた。もう一人は女性で髪は腰まで真っ直ぐに伸びており、目つきが鋭い美女だった。雰囲気がテレサと似ていた。どちらも腕などに鱗の跡もなく竜族とは思えぬ姿をしていた。


「どなたでしょうか?」


 俺は答の分かっている質問をした。


「初めましてだな……わしは竜族のガルシアというものだ。そして、後ろにいるのがクラリスだ」


 二人は俺たちに頭を深々と下げた。


「竜族が俺に何のようだ?」


「き、貴様っ!! ガルシア様に向かってなんて横柄な態度を取るのか!?」


「クキューーン」


 ソラはクラリスに酷く怯えてしまう。それを見た彼女の顔は真っ青になった。


「やめんか!! クラリス! 連れが騒いで申し訳ない。実は昨夜、ラミア国から、私どもの御子を見たと連絡があって、確認をしたくて訪れた」


「用件は分かった、俺の名は静岡音茶だ。おっちゃんで名が通っている。後ろにいるのがレイラ、テレサ、ルリ俺の家族だ。話しはゆっくり家で聞くから、ここで靴を脱いで入ってくれ」


 俺は竜族の二人を招き入れた。


 人生で一番辛い会談が始まった――


「まず、私どもの御子様を保護して頂き、竜族を代表してお礼を申し上げる」


「この子はソラという俺たちの家族だぞ」


「なっ!!」


 彼女は目を血走らせながら、俺に詰め寄った。


「おっちゃん様、まずは私どもが御子を失った経緯を聞いてもらえないだろうか?」


「先に確認するが、ソラが竜族の御子であるのは、確定しての話しなんだな?」


「無論そうだ。この数十年、竜族から新しい子供は生まれては居ない。しかもこの体色をした子供など、我が国の竜王様からしか生まれることは無いはずだ」


「色々聞きたいことはあるが、経緯を話してくれ」


ガルシアは事の経緯を話し出した――


 竜の卵は産まれてから安定期に入ると、卵の中からでも学習することが出来る。そこで竜が卵を抱いて全土を飛び回る儀式があった。その儀式の最中、大気が大きく崩れて、卵を抱いていた竜が魔の森に卵を落としてしまった。御子が魔力で自分自身を守ったので、卵が割れずに俺が拾うことが出来たという。もちろん彼らは、落とした卵を何日も探した。その卵が、あの高さから割れずに落ちて無事に孵るなど、捜索隊が諦めていたのは事実であった。


「そう言う訳で、御子様を連れて帰るために、私たちが派遣されたのだ」


「よく分かった、ただ普通なら子を失った親がまずは来るのが普通だと思うが、竜族は違うのか?」


 すかさずガルシアが俺の疑問に、重苦しい口調で答える。


「竜王様、竜妃様共々この吉報を聞いたとき、すぐに城から飛び立とうとしたが、わしがお諫めをしたのだ。なぜなら我らは人間とほとんど関わりを持たない種族だ。はずかしながら、私の連れの態度をみれば分かるだろ……何かあったらこの町を滅ぼしかねない事案で、御子様が五体満足でなかったとき、竜王様が暴れでもしたら……」


「助けて滅ばされたら目も当てられないわな」


「おっちゃん! ガルシアさんは誠意を持って対応しているのに、恥ずかしいぜ!!」


 レイラが怒鳴り声を上げ俺を叱咤した。


「俺が悪かった……ソラを親元には決めていた」


「そうか!!」 


「ただ、こいつは俺だけじゃない沢山の人たちにも支えられ、ここまで大きく育った。別れの挨拶を済ませないといけないので、一週間後にもう一度迎えに来てくれ」


「分かったと言いたいが、御子様と分かった以上は任せっきりには出来ない。そこでクラリスを護衛として付けるのがこちらの条件だ」


「問題ない、ただ彼女には俺の命令は絶対服従ということでどうだろうか?」


「御子様に危害さえ無ければ大きな問題ではない。クラリスよ御子様を護衛して、おっちゃん様の指示を仰ぐと良い」


「ははーーっ」


 クラリスは頭を下げ、俺の申し出を受け取った。


「私はこのまま国に帰るが、お願いがあるのだが……」


「出来ることなら…… 」


 俺はガルシアに何を言われるのか内心ドキドキする。


「御子様をわしに抱かせてはくれないだろうか」


「フハハハ、ソラ、このおじさんがお前を抱きたいんだと」


「キュキュキューー」


 彼にソラを預けた。


「御子様……本当にご無事で良かった……」


 彼の目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。


 ガルシアが家を去った後、俺はレイラたちにしこたま殴られた。


「おっちゃんはバカですか!? 竜族がキレでもしたらタリアの町は崩壊してましたよ」


「あの自信はどこから来るのか!?」


「ないわ~、流石にアレはないわ~~」


 その後も、三者三様になじられ家主の株をストップ安まで下げてしまった。


 この後、ソラの警護についてクラリスと一悶着が起こった。


「とりあえず、明日迎えに来てくれれば、俺たちはソラとギルドに行くのでその時護衛してくれ」


「了解した、それではまた明日会おう」


 彼女は俺たちに別れを告げ、門扉の横に陣取った。


「で、どうしてここから動かないのだ?」


「御子様の護衛でここから離れることなど出来ないので、この扉の前で警護させて貰う」


「イヤイヤイヤ……すまないが近くの宿屋に帰ってくれ」


「私は数日ぐらい寝ずの番は問題ないぞ」


 至極まじめな顔をして、答えを返してきた。


「そう言う訳では……」


「フハハハハ。おっちゃんの負けだぜ」


 レイラは豪快に声を上げ爆笑していた。彼女に釣られて、テレサとルリもくっくっくっと笑いを洩らす。俺はにクラリスを招かざる客として、受け入れることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る