第8話 おもちかえり

 昨日は久々に飲み過ぎたと、後悔しながら目覚めた。部屋一杯に若い蒸れた匂いが鼻につく。水を飲みに行こうとベットから立ち上がろうとするが立てない……何かが身体に絡まっている。ギョッとその何かを確認すると、褐色の腕と引き締まった足が俺を縛っている。


 スヤスヤと気持ちよさそうに俺にしがみついている大きな身体おんな。レイラだ! 昨日の出来事を思い返す。深夜まで二人で騒いで、最後は蹴られるように店主に店から追い出されたことを……。


 そして彼女と肩を組みながら、べろべろに酔ったまま俺の家に帰った。そのままベットに倒れ込み酒臭いキスに何故か大爆笑しつつ乳繰り合うスキンシップ。酒の勢いでかなり変態チックなことを彼女に命令し、二人で酒を口移しで飲んだところで意識が途絶えた。


 窓からの光で昼をとっくに過ぎていることが分かる。強く絡まった手足をほどき半身を起こす。カラカラになった喉をくみ置きした水で潤す。  


「オレにもくれッッ」


 裸体の彼女は寝ぼけ眼でベットから立ち上がり水を催促する。贅肉のない見事な褐色の身体に改めて見とれてしまう。しかし、そんな素振りを見せずにコップに水をくみ彼女に手渡す。小さな唇から水がしたたり落ち『ゲフッ』という残念な音を聞き彼女らしいと苦笑する。


 風呂に火を入れ終え、少し早い夕食の準備を始める。


「夕飯はどうする?」


「ゴチになるよ」


 ベットでごろごろ転がりながら答えが返ってきた。どこぞの従妹かよと、心の中で突っ込みを入れながら獣肉を揚げる。タンスからなるだけ新しい上着とパンツを彼女に手渡す


「水風呂だがはいってきな」


「この家に風呂なんてあるの!?」


 目を丸くして服を受け取り、俺にキュッと締まった尻を無頓着に見せて風呂場に向かう。夕食前にその妖艶な姿を見て、結構満腹になったのは気のせいだろう。


 料理が完成した頃、風呂から上がってきた。髪が濡れている女はいいものだよなと、風呂上がりの彼女を見る。パツパツに弾けた上着を眺め、いい女からいいおっぱいに上書きされてしまう。


 テーブルの上には皿に盛った山盛りの唐揚げ。彼女の『旨そう』というスターター音とともに、唐揚げが次々と消えていく。冒険者は身体が資本なので、男女を問わず大食いが多い。それを見越して用意した料理が思ったより早く無くなりそうだ。美味しそうに食べていたので、この不思議な料理はなんなの!? 貴方天才料理人。という定番イベントを期待したが『ゲフッ』と締まらない彼女の返事しか返ってこなかった。


 レイラに酒はないのかと催促されたので、仕方なく彼女に差し出す。宅飲みの神髄を見せてやろうと思ったが、結局は彼女のハイペースに煽られ昨日と同じようにべろべろに酔って、酒がつきるまでゲラゲラ笑い飲み続けた。おっさんの飲み方は、美味しいつまみを食べながらチビチビと酒を飲むんだよ。それなのに俺の手作りポテチを、彼女は鷲づかみでボリボリ頬張るんだから! これじゃあ学生の宅飲みだよ。ああ、彼女はずいぶん若かったね……。

 

 昨日もまた同じ醜態を反省しつつ薙刀の素振りをする。上下振り、斜め振り、横振り、斜め振り下から振り返す八方振りを反復。小学生の頃、薙刀を習った教えを思い出して毎日汗を流す。今更上手くなるとは思えないが、この世界を生きている以上、最低限の力は出来るだけ維持したいので日課として続けている。


「面白い剣の動きをしているじゃねぇか」


 木刀を片手に彼女が起きてきた。何故あなた様は右手に木刀を持っているのかしらと、心の中で突っ込み薙刀を構える。腕に自信があれば『怪我をしても知らないぜ』といいながら彼女の木刀を軽く振り払うのだが、簡単に剣を振り払われたのは俺のほう。三十分ほど彼女の打ち込みを受け、一方的に防戦して終了。俺の体裁きを見たかと強がって見せたら彼女は爆笑した。


 丁度良い湯加減になった風呂で汗を流す。湯船につかると彼女もいっしょに入ってくる。別の汗を流しそうになったが、薬草狩りという大仕事が待っているので我慢する。もちろん我慢した素振りなど微塵も見せなかったのだが、レイラが俺に向けてニヤニヤしている顔がむかついた。

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