第9話 ソードアートオンライン

 オンラインゲームにPKという言葉がある。PKすなわちプレイヤーキル、ゲーム参加者に攻撃を行い、金品強奪やデスペナルティを楽しむプレイヤーを指す。PKなど現実世界ではほとんどおこらないと思いがちであるが、日本以外の諸外国では金品強奪で殺されるのは当然のように行われている。これは後進国だけの話ではない。先進国でも夜には絶対に歩いてはいけない場所は数多くある。この常識が全く通用しないのが日本である。若い女性が深夜に一人歩き出来ない危険地域など皆無に等しい。


 薬草の狩り場を目指している途中男たちに道を遮られた。


「そこのおっさん、景気が良さそうだな!」


 冒険者の格好をした、二十代後半とおぼしき三人組が道をふさぐ。碌でもない用件だとは思いつつ


「なんの用件でしょうか?」


身体を少し曲げて下手に出る。


「昨日たいそう儲けたらしいじゃねえか」


いやらしく笑う三人組。銀髪のリーダー格と思われる一人の男が自身の防具を指さし


「昨日、高い買い物しちゃって金がないのよ」


やはり碌でもない用件だったと心の中で毒づく。ここでどう反応しても答えは同じなのでうつむく。


「ちょっとばかしカンパが欲しいわけ」


 俺は鞄から金の詰まった袋を取り出し、自分の足下近くに放り投げる。一人のひげ面男が、にやけ面して近づいてきた。


「いったとおりでしよ兄貴。こういうやつは、金が手に入ったら結構な額を持ち歩くんですぜ」


 ゲヒヒと笑いながら足下の袋を拾い上げる。


その刹那――薙刀を真上から振り下ろす。グシュッという潰れた音が鳴り、悲鳴を上げてひげ面は血を流し転げる。さらに刃を横に流しもう一人の首を掻き切った。その切り口から血しぶきが噴き出す。さすがに3人目は刀を抜き、薙刀の間合いを外すように下がる。


「よくもやってくれたな」


 三下のような言葉を銀髪男が吐く。構えからして手練れな冒険者だと伝わる。薙刀を右中段に構え相手を牽制する。

 

「スネェェェェェェエエエエエエエエエエエ!」


 銀髪男は『ヘッ』と顔をして左足に刃を受け尻餅をついた。彼の目の前に刃を近づける


「ち、ちょとしたイタズラなんで……許してくらさい」


 さっきの勢いがどこかに吹き飛んだような弱々しい言葉(ざれごと)を吐く。俺はゆっくりと目をつむり……銀髪男の首を飛ばした。

 

 銀髪男は冒険者として弱い部類ではない。薬草を狩るだけのおじさんという油断だけで、剣をまともに合わせることもなく負ける実力ではなかった。ただ、喧嘩を売った相手が悪かった――。薙刀で下半身を攻撃されるとは想定していなかったのだ。初見殺しに近い形で彼は敗れた。

 

 盗賊でもない彼らを何故いきなり殺したのかと問われれば、生かして丸く収めることなど出来ないからだ。もし言われるままに金を払っても、それで終わりではない。襲われた事実をギルドに報告したとして、三対一の数の暴力に屈する可能性もある。命をベッドに一番簡単な解決方法を選んだだけのこと。平和な日本で長年生きてきた俺だが、異世界で日本の倫理を押し通すほどの余裕はない。

 

 血の臭いが漂う中、三人の死体をまる裸にして茂みの奥まで引きづり運ぶ。彼らの銭袋には少しの黄銅貨しか入っていないのを見てため息をつく。冒険者プレートを身体から引きちぎり、いつか自分で拾えますようにと願掛けをして森の奥にほうり投げた。最後に銀髪男の防具を水場で綺麗に血を落としながら、これは買い取りが高そうだと笑みが漏れる。ただ命のやり取りをして、すり減らした魂の損得を考えるとマイナスだと感じた。


このまま薬草狩りをする気にもなれず、河原で薙刀を振り続ける男。太陽がほんの少し傾き始めた頃、一人のPKKは何もなかったように山を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る