私の、最期の宝探し。
仁平
プロローグ
【これは、私の遺書】
空が、とても青かった。だから、死ぬことにした。どうせ死ぬなら、こんな気持ちのいい日にしようと決めていた。
そもそも私は、私が嫌いだ。人を信じられず、嘘にまみれ、優しくすることを知らない。そんなひどい自分が、とにもかくにも嫌なんだ。
優樹。優しい樹。私は自分の名前が嫌いだ。呼ばれるたび、母の想いを踏みにじっているような、母に背いているような、辛い気持ちになる。ごめんね、お母さん。私はすごく醜く腐っていて、人に優しくすることも、樹のように拠り所になることもできやしない。誰かのためになんて生きられない、冷たい人間なんだ。
これは、私の遺書だ。醜く腐った私という人間は、今、役目を終える。屋上から見る青空は、やはり果てがなく、伸びやかで、すがすがしいものだった。
お母さん、ごめんなさい。私は、悪い子でした。いつもお母さんはいろんな話を聞いてくれたね。進学したい大学の話も、真剣に聞いてくれたね。でもごめん。全部嘘なんだ。大学なんて行きたくないし、本当は学校でもひとりぼっちなんだよ。誰とも話せず、誰にも好かれず、ひとりぼっち。だって、誰も信じられないから。話したって、嘘をついてしまうから。ほら、私って嫌な子だ。
もうね、嘘をつくことに疲れたの。嘘をつくのってね、とっても苦しいんだよ。胸がぎゅうってなって、ボロボロと何かが零れていく。失われていく。そんな感じ。だからもう、疲れたの。嘘をつくことしかできないなら、ここで終わりにしようと思ったの。こんな娘でごめんね。お母さん、愛してくれてありがとう。
フェンスを越えて、一歩、前へ。もう一度、空を見る。子どもが描いたような、のっぺりとした青空。どこまでも真っ直ぐで、正直で、伸びやかな空。こんな風に、曇りのない人間でありたかった。もっと誰かと話したり、人を信じてみたり、自分をさらけ出してみたかった。卒業式に別れを惜しんで泣き合うような友達がほしかった。私がこの空みたいに真っ直ぐだったら、できただろうか。……悔しいな。ふとそう思ってしまうと、もう、涙が止まらなかった。ぐしゃぐしゃに顔をゆがめている私は、きっとひどい死に顔をするのだろう。
泣いて泣いて泣き続けて、いっそ一生分泣いてから死のうなんて考えて、ずぅっと泣いた。それでもずっと、空は青いままだった。きれいだと思った。こんな空には、なれないかな。こんなきれいには、無理か。でも、少しなら。のびのびと、晴れやかに生きてみたい。最期に、思い切り幸せになってみたい。ああ、私は弱いな。もしかしたら、死ぬのが怖いのかもしれない。あるいは、もう少し生きてみたいのかもしれない。こんなにあっさりと、気持ちが変わってしまうとは思わなかった。情けないけど、本当はまだ、生きたかったのかもしれない。……もう少しだけなら、いいかな。
空が、とても青かった。だから、生きてみることにした。これは、いつでも死ねる私が、生きる意味を探す宝探しだ。
私の、最期の宝探し。 仁平 @jimbei
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