4,相手に告白させる技術なんてないので、自分から告白する。
夢の内容がひどくなっていく。
暗闇の中。痛いような、かゆいような、火傷するほど熱いような、不快な感触。
息を吸おうとしているのに、体が、口が動かない。でも、吸わないと生きていられないから、吸わないと駄目だ。
まぶただけは開いた。
あぁ、彼が泣いている。どうして泣いているのという疑問すら、口から出せない。悲しいよ、そんな風に泣かれたら、お別れみたいだよ。
まだ、何も話せてないのに。あなたに伝えたい言葉がたくさんあるのに、まだ伝えたい気持ちは心の中にとっておいてあるのに。
痛い。苦しい。熱い。助けて欲しいのに、なぜか私は助けを訴えてはいけないと思っていた。
ため息を吐きながらも、親友は優しく顔にコンシーラーというものを塗ってくれていた。頬も首も、かきむしった痕だらけだった。
「恋する乙女が一番目立つ場所かきむしって傷だらけってバカかよ。また夢でも見たか?」
ごもっとも。親友の正論が心に突き刺さる。
「すっごく、怖い夢見た」
「そう。これからは首にタオルでも巻いて寝な。よし、まぁ、これで何とかなるだろ。今日は体育ねえし」
思わず彼の姿を探してしまう。
いつも遅刻ギリギリに来る彼が、やっと教室に入ってきた。まっすぐ私の方へと向かってきて、心配そうに私の顔をのぞき込む。
「おはよう、それ大丈夫なの!?」
「え? あ、うん」
突然大声を出した彼に、体がびくりと跳ねてしまった。
「そうじゃねーだろ。ちゃんと話して心配してもらえっての」
ごめん、世話が焼けるよね。
でも、うまく言葉が出てくれない。私は夢の中で彼を泣かせてばかりいるんだから。
「おい犬。今日は一緒に帰ってやれ。そんでたっぷり寄り道しろ」
「う、うん! もちろん!」
待って、言葉が出ない。
夢の中で私は彼と引き裂かれていく。現実に起きている事ではないのに、現実でも同じように引き裂かれてしまいそうな焦燥感が消えない。
私と同じようにいたたまれなくなったのか、彼は自分の席へと逃げ帰ってしまった。
「……あんた、今日あいつに告白しろ」
「へ!? そ、そういうのって女子がするものなの?」
デカい溜め息を吐かないでよ。『マルグレーテブレス』とでも名付けようかな。
「お前に、男に告白させるよう仕向ける技術なんてねぇだろ」
何よその大正論。
「だ、だって、それで振られたら……」
ああ、マルグレーテブレスが再び炸裂した。
「振られねーから大丈夫だ。保障する。あいつのスケベな顔見ただろ。お前のこと愛しすぎててヤリたがってる感じだろ。知らねぇけど」
「わ……分かったよ」
保障するなんて言われたら、従わざるを得ないじゃないか。ずっと、ずっと彼のことを求めていたのだから。
「え……?」
なんだ、今の気持ち。私はこの狭い街で彼のことは昔から知っていた。でも、小説に出すほど想いが募ったのは中学生の頃で、初めて話したのはつい先日だったはずなのに、ずっととはどういう意味だろう。
「あん? どうした?」
「あ、ごめん、なんでもない」
私の中に、知らない何かがある。もしかしたら、これが私の夢の正体なのだろうか。彼と私を結びつける何かがそこにあるのかもしれない。
でも、夢の中で彼は泣いていて、私の体は動いてくれない。そんな恐ろしい夢と向き合うなんて、私にはできるだろうか。
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