3,いやらしい夢は見ていない。見たくないといえば嘘になる。

 また、夢を見た。

 夢を見ている間に夢と認識できたのは初めてかもしれない。

 鎧姿の彼は泣きながら私を抱きしめていた。鎧に顔が押しつけられて痛いはずなのに、特に何も感じなかった。そこで夢だと気付いたけれど、私のまぶたはやたらと重くて、体も動かなかった。

 なんとか薄目を開けて彼を見ることしかできなくて、それがもどかしくてたまらなかった。

 もう、彼とは一緒にいられないかのような。



「ふわぁ」


 夢見が悪くて眠い。昨日の夢はなんだったんだろう。

 せっかく昼休みに課題を手伝ってもらえたのに、近くにいるだけで言葉が出なくて、指も震えて字もまともに書けなかった。


「何がふわぁだよ。毎日毎日仲取り持ってやってんのに事務的な会話ばっかりしやがって」

「だって、あいつ夢にまで出てくるんだもん」


 やば、眠気に任せて言ってしまった。ニタニタ笑いやがってマルめ。


「ほほう、どんな淫夢?」

「んなわけねーでしょうが」


 私は清い交際を心がけたいんだ。見たいけど。もう少し進んだ関係にはなりたいとは思うけれど。まぁ、そういう夢も見てみたいとは思うけれど。

 少しずつ、彼と過ごす時間は増えている。でもそうなればなるほど、夢の中の彼は泣いていたり、膝の上で私の頭を抱えて嘆いたりしていて、心配でたまらなくなる。


「ちょっと、あんた顔とか首とかかきむしったの?」

「う、うん。ダニにでも噛まれたかな?」


 私も今朝起きてビックリした。


「ちゃんとシーツ替えねぇからダニが湧くんだぞ。あ、これあげるわ」

「え? その首輪を?」

「首輪じゃねぇよチョーカーだよ。ここに視線が集まるから、ひっかき傷くらいごまかせるだろ」


 マルの首から外されたそれが、私の首に回された。


「あ、ありがと……いいの?」

「おう、返却は受け付けねぇよ」


 うわ、思った以上にうれしいな。マルからアクセサリーをもらえるなんて。

 

「あれ? その首の……首飾り? マルのを借りたの? 似合うね」


 うわ、早速彼の登場だ。

 しかもちゃんとあだ名呼びを徹底していて可愛い。似合うって本当かな。超絶美女からのお下がりが私にも似合うのかな。


「チョーカーっての。ふん。メルの変化に気付くとはなかなかの忠犬っぷりだぞ、ジョンよ」

「そ、それ、褒めてるの?」


 うんうんとマルが首を縦に振る。

 少しだけ気分が良くない。ジョンめ、私だけじゃなくてマルのこともよく見てるんだな。でも、お世辞でも似合うと言ってくれる彼はやっぱり優しい。


「あ、先生来るよ。それ外しておかないと取られちゃわない?」

「あたしがずっと付けてたのに取られてねーから大丈夫よ。昼休みにもっと褒めちぎれよ?」

「えぇと、分かったよ」


 うわ、どさくさに紛れて一緒にお昼を食べる約束取り付けてくれるなんて。マルグレーテ様、女神以上の女神だわ。

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