第20話 厄災
大聖堂内部、ワイバーン迎撃計画の話を行った時の部屋に集まり、一同着席した。
トキは私の分の椅子も準備していてくれたようで、今度はそれに素直に座った。
「脅威は去っていませんが、ワイバーン討伐を確認しました。」
トキが語り掛ける。
「まだ町中にはワイバーンが落とした魔物の卵らしき物が落ちていますが、これから魔物が現れる条件が判明していません。マスターティンカー、アヤ殿、魔物が現れた際の詳細を改めてご説明いただきたい」
ティンカーが戦闘後、建設中の建物内部で卵のかけらを見つけたことを報告していた。
殻の呪いついてはレイチェルが残留解析済で、結果、殻のみで呪いが発揮することはないそうだ。
レイチェルが孵化していない卵には呪術の痕跡があることを説明していた。
落下地点の条件によって孵化するのではないのかと。
「アヤ殿、ウィザードゾンビを見つけた詳細を教えていただけませんか?」
急に話を振られた。
慌てて簡潔に説明しようと試みた。それくらいはできなくてはいけないと思ったからだ。
「子供の声が聞こえ子供の姿で初めは認識していました。避難漏れだと思い保護のため私から声をかけました。ウィザードゾンビだと認識したのはティンカーと合流してからです。幻惑状態になったきっかけはわかりません。ただウィザードゾンビが建設中の家屋にいた時からこちらの存在に気づかれていたようです……」
ティンカーが様子を見に来なければどうなっていたか……。
「単独で行動し、申し訳ありません。」
せめて子供を見つけた段階でティンカーに相談すれば、よかったのだろうか。
結果が良い状態でなければ、最善の判断だと思っていても、最善ではない。
「幻惑耐性の対策をしていなかったので気に病むことはありません。その対策はのちほど」
あの時の子供が小さなころのトキに似ているのも幻惑の影響だったのだろう。
そういえば、あの子供……いや、ウィザードゾンビが何か言っていたことを思い出す。
「……黒い、やくさいのおう?」
呟くと、全員の視線が私に集まっていた。
勘違いでなければ、畏怖の感情が顔に出ている。
「あの……やくさいのおう、って何…ですか?」
問いかけても誰も言いたがらないのか、無言で視線をお互いに交わしていた。
トキが苦い物を含んだような表情で口を開いた。
「厄災の王、この世界の住人は魔王と呼んでいます。」
トキはこの大陸の地図を広げて、元魔人城を指さした。
「この世界を滅ぼそうとした魔人アビスが息絶える間際に言い残した言葉です。『真の王となる厄災の王が生まれる、すべてが支配され、この世は完全に統一されるだろう』……そう言い残し倒れました」
魔人を倒した英雄本人が言うのだから間違いないのだろう。
レイチェルが宙を見つめ、そっと目を閉じた。
「魔王が誕生したのか、ならば、魔物の行動が通常と違うのは納得じゃな、新種の魔物が生まれたなら研究しがいがあると思っていたのにのう……」
エスカが落胆した表情で腕を組んだ。
「平和な期間は一年程度、すべての国に鉄道を通す計画どうなるんだろうな……王直属飛竜部隊を民間移動に使えるようになれば楽になるんだろうが…ないな……」
ティンカーが両手で顔を覆って、テーブルに突っ伏した。
「せっかく町ができたのにぃ、帰らなきゃいけないのかなぁ?。故郷のスカウトマスターの教え方ってあんまり好きじゃないし、ここなら色々できると思ったのにー……」
セリティアが抜け殻のような状態で、呆けた顔をしている。
「魔王がこんなに早く誕生すると分かっていたらこの地のマスターなど全力で拒否していましてよ…話が違うじゃありませんか……」
口々に愚痴がこぼれた。みんな色々抱えていたんだろう。
トキが咳払いして皆をなだめようとする。
「ここは過去世界を滅ぼそうとした魔人の本拠地がある地。主を失った魔物から我々が標的として狙われるのは当然のことですし、魔物はこの世界から完全に消えることはないと言われているため悲観はそこまでにしましょう……卵の始末についてはこれから計画内容を話しますので……あの、聞いていただけますか?」
トキが説明しようとしても、4人はしばらく、各国の仕組みも含めて口々に愚痴を言っていた、校長先生の話を聞かない問題児が多い生徒の図にも見える。
落ち着いたところで、トキから卵の回収についての説明がされた。
魔物はマジックバックには入らないが、結界をすり抜けたなら鞄に卵は入るはずだと。
入らなければ、台車で運ぶなりして、一か所に集める。集める場所は大聖堂魔法陣が設置していた場所でよいとのこと。
落とした卵の数は、感知した分、数値は36個らしいが1つは孵化してしまっているので35個、大聖堂前に22個落ちているので、通りに落ちている数はおそらく13個。
孵化済と出会ってしまった場合、せん滅することよりも、状況に応じて退却を考えてほしいと言われた。
卵ではなく魔物として認知できるのであれば、切り札でどうにかできると。
戦闘を考えると3人一組で動くことが望ましいと言われた。
対応に当たるのは、エスカ、ティンカー、セリティア。
レイチェルは極大魔法を一度使っているため、聖堂にて可能な限り魔力回復に努め待機、私も同じく待機となった。
卵を運ぶくらいならできると思ったが、戦闘時に足でまといとなるのかと思ったら、待機は受け入れるしかなかった。
トキはこの聖堂から出ることができないので、もちろん待機だ。
もしかしたら、一番歯がゆい思いをしているのは、トキなのかもしれない。
過去、魔人を倒した英雄の一人なのだ。
この地の魔物の倒し方など、誰よりも熟知しているのに、大神官のレベルが上がらない限り、町を守るために聖堂から出られないのなら、私ならきっと歯がゆい。
気になることもあった、それをこの場で確かめる勇気はなかった。
厄災の王。
子供の姿で幻惑してきた魔物は私のことを、そう呼んでいた気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます