第17話 飛空魔物VS極大魔法


満月を背にワイバーンたちが旋回している。


ワイバーン達はぶつかりあいながらたいまつの明かりの上をぐるぐると回っている。

私が走り去った後方に岩が落ちてきた。

口にくわえていた宝石のような岩を私たちの明かりめがけて落としているようだ。


岩を落としたワイバーンは口が自由になった影響か、耳障りな鳴き声を響かせながら、火を噴いて、上空を旋回していた。

空が時折、吐き出された炎で明るく染まる。


まずは中央広場、すでに前方に素早く動く明かりがあった。

ティンカーだ。

私とティンカーのみが動いている、はずだ。

だが、別の場所でも音が聞こえるということは、もしかしたらグラさんも動いているのかもしれない。


中央広場から大聖堂前まで二人で一直線に走る。

ティンカーは落石を中央広場でよけながら私を待っているようだ。

時折バチっと音が鳴りワイバーンの巨体を見えない壁がはじき返す音が聞こえる。

落石をよけながら、私とティンカーは聖堂前まで走る。


ワイバーンは私たちのたいまつの火に反応して順調についてきているようだ。


結界越しの上空にいるはずなのに、形が分かるということは、巨体なのだろう。

間もなく大聖堂前に到着した。

大聖堂前の開いた場所へたいまつを置いて、入口屋根の下に入り少し見守る。

落石が松明めがけて集中的に落ちてきた。

聖堂には一つも当たらない。

たいまつの火も魔法だからか、直撃せず消える気配がない。


スカウトのスキル偵察の影響だからか夜なのに物がよく見える。

横にいるティンカーを見るとティンカーは視線に気づいてウィンクした。余裕だな。

エスカとセリティアが戦闘している様子はないので、穴からワイバーンが入ってきてはいないのだろう。


詠唱が始まったのか、地面に魔法陣が浮き上がった。

更に落石が続く。

私たちはそれを避けながら被害状況を確認するために来た道を戻り始めた。


地面から浮き出る魔法陣が足元を照らす。


落石物をよけながら中央広場へ進んだころ、ティンカーが私を呼び止めた。

メイジを極めた物だけができる最大攻撃魔法、極大魔法を見る機会はそうないと言って見晴らしの良い教会の屋根へ上るよう勧めた。

ティンカーの後を追い、教会の屋根へと私も飛び移る。

セリティアの教会は撤収されていないらしい。

ここに落石されたらセリティア怒るんだろうなと思いつつも、今のところ落石では、どこも被害がないようで何よりだ。


上空はワイバーン達が密集している、吐き出す炎で赤く染まっていた。


地面の魔法陣が徐々に上へとせりあがる。

二階建ての建物の屋根を飛び越えて魔法陣が空中に移動していく。


壮観だった。


私たちの頭上の魔法陣に向けてワイバーン達が火を噴くが届かない。

上空で飛び回る飛翔する魔物が炎を吐く。

地上からせり出す魔法陣が宙に浮かんで頭上にある。

まぎれもなく異世界だ。


炎を吐くワイバーンの中から一匹だけが群れから離れていくのが見えた。

ほかのワイバーンは届かない火を吐き続けている。


あれが、ワイバーンロードか。


魔法がそろそろ発動するころだ。

そういえばレイチェルの魔法を見たことがないと思っていると、地鳴りがした。

地面は揺れていない、しかし、地鳴りのような音が続いている。


魔法陣が輝きはじめた。同時に魔法陣が回転し始める。回転が最高潮になったとき、炎の竜巻が発生した。

それは火竜に見えた。

レイチェルの極大魔法。極大というくらいだから最高攻撃魔法なのだろう。


街の半分を飲み込むほどの魔法陣から噴き出た竜巻と火柱が、今、上空へと渦巻いている。


竜巻は炎を巻き込みながらワイバーンたちへと向かう。

上空のワイバーン達は火を吐くばかりで、逃げだそうとはしていない。

自分たちが火を吐くのだから、火など怖くないのかもしれない。


熱風が私たちのいるところまで吹いた。


炎の竜巻は、上空にいるワイバーン達を飲み込み、渦まき、一瞬で消滅させてしまった。

消し炭になったワイバーンは大地に落ちるころには灰状態でパラパラと地面に落ちていく。


「すごい……」

「魔法って効けば一発だからね、でも、一匹だけ移動している。あれがワイバーンロードか……ほかに倒しそこねているやつはいないみたいだけど、城壁外にいるって考えて、念のため被害状態を確認して今度は入口からたいまつもって一緒にまっすぐ行こうー!」

ティンカーの呼びかけにうなずいて私たちは左右に分かれて駆け出した。


走っている途中、ワイバーンたちが落とした岩が地面にめり込んでいるのが見える。

誘導していた影響でか、建設中の建物を避けて道沿いに点々とおちている。

岩というより宝石、つるりとした表面は真珠のようだと思った。


走りながら数を数える。

こちらは10程度か。

城壁入口ではティンカーが待っている。早く行かなくては。


「……お姉ちゃん」


空耳かもしれないが子供の声で呼び止められた気がする。

足を止めてあたりを見回す。

ワイバーンは今一匹大聖堂上を旋回しているはずだ。

レイチェルが二回目の極大魔法を打つだろう。それで終わるはずだ。入口付近にワイバーンが飛翔する気配はない。


建築中の柱を立てただけの建物の中を見ると、人影が見えた気がした。

注視してみると子供だ。子供の後ろ姿が見える。

角はない、耳も長くないしヒレでもない、羽もない。

服はトキと似たような、ローブを身に着けていた。


人間だ。

人間の子供が、一人、暗闇の中、泣いていた。

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