第12話 ワイバーン
「ワイバーンが群れて上空から、襲ってくる!?」
トキの部屋に転がり込んで、魔物の襲来を知らせるとトキは鳩が豆鉄砲を食らった顔をして信じられないように何度も確認してくる。
「結界に?……穴が開いてるらしくて……ティンカーが確認をって……」
息切れは精神的なものかもしれない、喋っているがなかなか動悸が落ち着かない。震えもだ。
「……穴って……故意的に開けているところがあるけど、入ろうって思っても魔物だとダメージがあるから入らないはず…ワイバーン……小型だとぎりぎり軽傷で入るか?……でも、ワイバーンがあの穴めがけて入ってくるとか……しかも群れとか……」
「町中に男の人が落ちてきて……偵察していたスカウトの人が大けがして……」
血まみれだったのだ。城壁並みの高さから落とされたならば、普通の人なら即死だ。
彼が生きていたのは奇跡なのか、この世界の職業の影響なのかわからない。
「……ありえないな……」
トキが考え込んでいる。
「そのワイバーンが人に向けてしゃべったとか、あと結界のどこかに他に穴が開いてないか確かめてほしいってティンカーが……」
「しゃべった?」
トキの表情が険しく変わった。背後でトキの出したであろう服の山を畳んでいたグラさんも眉をひそめた。
「ワイバーンロードか、ワイバーンに騎乗していた奴がいたっちゅーことやな」
グラさんが衣類を壁際のタンスに入れ、エプロンのほこりを落とす。伝言も終えた、疑問に思うことは今聞くしかない。
「グラさん、ワイバーンって何なんですか?…ワイバーンロードも…」
グラさんは渋い表情をしていた。
もともと強面の顔だが、眉を寄せているだけでも近寄りがたい空気を醸し出してしまう。だが、可愛い兎柄のエプロンをしているので、違う意味で近寄りがたいのかもしれない。
「ワイバーンは2メートルから10メートルの個体差のある竜の一種や。飛翔する。大きさは2メートル近く。両手が翼の魔物や。本来は話せんが、ワイバーンロードは別や。進化したワイバーン、知性は人間並みや」
トキも書類を片付けながら考え込んでいた。グラさんの話を聞いて独り言のように呟く。
「ドラゴンよりも従順に馴らせるから、騎獣の一種として扱っているところもあるけど……ワイバーンロードのほうが可能性は高い……いや、ワイバーンロードのほうがまだいい」
書類を片付け終えてトキが深くため息をついた。思考をまとめようとしているのか目をつぶって眉間に指を置いている。
「嬢ちゃん、各マスターたちは今どうしとる?」
グラさんが私に確認してきた。
「住民の避難に当たっているそうです」
「なら大丈夫やろ、となると、問題は穴か……トキ坊やらかしたん?」
うなだれているトキの頭を軽く小突くグラさん。
トキは頭を抱え両手で髪を乱す。
「いくら俺の大神官のレベルが低いからって、外部から破られることは考えにくいけど、念のためチェックしますよ、グラさんボディーガード頼みます」
「わかった、いつでも来いや!」
トキが目を閉じて詠唱を始める。
グラさんが、両足を踏ん張って後ろに手を組み仁王立ちする。
トキの周囲に淡い光が舞い、トキの背後から光り輝く鳥が飛び出した。
まばゆい光がトキを覆う。
グラさんの周囲には紫色の煙が円陣を描きながらまとわりつく。
グラさんは仁王立ちのまま動かない。
二人が何をやっているのかわからないが、セリティアが傷を治したようにこれもきっと魔法の類なのだろう。
数秒目を閉じていたトキが目を開くと、光が唐突に消えた。
同時にグラさんが出していた紫色の煙が晴れていく。
「ほかに穴は開いてない。結界は魔物以外はすり抜けられるからそれを利用したのか?今はワイバーンは街の周辺にはいない……」
トキがぶつぶつと独り言を言っている。
「穴はないってティンカー達にそう伝えればいいの?」
「伝えるならついでに、マジックバックに入れられる建物は入れて、聖堂をあえて狙わせるって伝えておいて」
わかったと聖堂を出ようとしたらトキに呼び止められた。
「アヤちゃんはスカウトに転職しておいたほうがいいよ」
「え?なんで?」
「スカウトのほうが素早く逃げやすいから」
初期職を選んだあとの転職は、大神官の元で行われる。
私はトキの前へ歩み出て跪く。
幼馴染の前で変なポーズだと思うが、この形式が転職するには必要らしい。
トキが私の頭に手をかざすと暖かい感覚が広がる。
一瞬、光に包まれたが特に変化はない、だが転職は完了している。
「ファイターとスカウトは装備兼用だけど、武器が違うから」
トキが鞄の中から銀に輝くナイフを私に渡した。
「走ってるうちにレベル上がると思う、一応持ってて。でも、ワイバーンは今のアヤちゃんじゃ絶対に敵わない、出会ったら絶対に戦わず逃げるんだ」
「わかった」
「ワイバーンは訓練でもしていない限り夜は動かない。動くなら明朝。群れを率いるつもりなら動きが鈍い時間帯は避けるはずだから、今のうちに色々対策するって伝えてほしい」
「うん、行ってくる」
私は大聖堂を飛び出し驚いた。
ファイターの時より体が軽く、速く走れたからだ。
もしかしたら、と跳躍してみると、軽く飛んだだけで走り高跳び並みに飛んだ。
ただ、私にはティンカーのように屋根に到達するまでの跳躍力はないようだ。
これがレベルの違いか。
とにかく伝言を伝えなくては。日没が迫っている。
避難が進んでいるのか、道沿いに店もない、人もいない状態だった。
日が暮れて薄暗い。急がなくては。
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