第9話 今できる事を知るために
元アサシンであるトキがグラさんの身柄を引き取る事は容易ではなかったが、それはトキの大神官転職が影響していたらしい。
大神官の誰もが請け負いを渋った件を、転職をしてまでトキは請け負った。
トキは、元の世界に戻れないと知り自棄になっただけと口をはさんだ。
……予想していたが、戻れないのかと少し気持ちが沈んだ。
当時のトキがどのようにグラさんを窮地から救ったかと言えば、これから向かう土地へグラさんが同行しないのであれば、役割を降りると言い、教会側はトキの要望を全面的に尊重する事にしたそうだ。
ウィンダム大国の女王もトキの要望を最終的に認可したらしい。
ある意味、島流しだと教会の人間も王族関係者も思っていたのだろうとグラさんは言う。
トキが請け負った新たな役割は、魔人が本拠地としていた創生の地の調査。
浄化を行い移住可能な土地となるかどうかを試みる、と言う内容だったのだ。
つまり、私が居るこの土地こそが、創生の地らしい。
祝賀会に参加している者たちには、表では王子は不慮の事故で亡くなったと言うようにと伝えられ、この件に関して祝賀会参加者には固く口を閉ざす事を王族側から要求された。
祝賀会開催地となった国はウィンダム。風を司る大国。
創世の地に最も近い地である。
この一件が発端で、アサシン職に関してのみ今後は各大国からの援助を行わない事とし、大国でのクエストはアサシン職のみ報奨金が支払われない事となった。
報奨金が支払われない表面上の理由は、平和な世の中であり魔物と言え無益な殺生は望ましくないため、とされた。
魔物の数が増えたと観測断定されるまで報奨金を支払う事を止め、初級職業や他の上級職が対応に当たるようにと変更された。
クエストが今一つ分からないが、金策の鉄板とトキが口を挟んだ。
つまりバイトか。
魔物の数が減少しているのだから、この理由に疑問を持つギルドもいないらしい。
不要な業務と判断され、国からの補助金が切られたと言うことだ。
それは……あちらでもよくある事だが。切った後に問題が起きるイメージはある。
事件については初級主職業の、ファイター、クレリック、メイジ、スカウトのマスターには真相は伏せられ表面上の確定事項の文面が大国から届いているらしい。
小国では制度適用外のため、未だアサシンが受注可能な高額報酬のクエストがあり、アサシン職を目指す者もいるために現場の状態と制度の制限に祖語が起きてティンカーのような状態に陥っているマスターもいるのだろうと言われた。
初級主職業のマスターは各国に複数人点在している、義務教育学校の先生と思っていいとトキが口をはさんだ。
上級職マスターは一人である事が多いらしい。東大とか京大とかの教授と思っていいとトキがまた口をはさんだ。
どちらにしても先生は先生である。
グラさんが言うには、アサシンマスター不在の理由が王族殺人容疑で自粛、と言う事は別にどうでもよいらしいのだが、アサシン職が途絶えてしまう事を一番恐れているらしい。
今は平和だが、いつまで平和か分からない。
その時に、前線に率先して動き、敵を偵察、場合によっては雑魚を殲滅して安全な活路を作り出す役割が途絶え、犠牲者数が多数出る事が最も怖いのだと言う。
だが、王子暗殺者が捕まらない限りは、ギルドのクエスト報奨金も大国側からは出ない。
他のアサシンが今の制度では稼げない事を知り、盗賊の道に落ちる事まで予測できなかったそうだ。
この件に関してはグラさんも、トキも聖堂とこの発展途上の町の中以外、動けない事が原因で、頭を痛めていると言う。
私はティンカーの言葉を思い出す。
アサシンの適正があると言われた。
私はトキの言葉を思い出す。
特性は途中で鍛えればどうにでもできると言っていた。
私はセリティアの言葉を思い出す。
転生者は旅に出ると言っていた。
つまり、私は自由に大陸を行き来出来る。
どの道、今の私に出来る事など限られているのだ、そのような状況ではやる事はただ一つ。
今の自分に出来る事は迷わずやっておくこと。
「……私。アサシン職目指す。他の大陸も見ようと思う……グラさんが復帰できる条件が整うまでマスター代理もしたいけど……可能?」
グラさんとトキが私を見て、トキが何かを言おうとしたが「ほんまか!」とグラさんが目を輝かせ私の手をがっしり握った。
「わしの代でこの職途絶えさせたら、死んでも死に切れん思てたわ、助かるわ、嬢ちゃん!」
グラさんの喜びのテンションとは真逆にトキは沈んだ声で私に向けて言う。
「今転職したらスライムも倒せないアサシンになるよ。初級主職業に戻るのも大変だし、転職前はアサシン以外の職業をある程度レベル上げて……定期的に俺の所にその足で戻ってきてくれたら……俺が集めた武器防具…レベルに合わせて譲るよ」
どうやら装備はレベルごとに必要らしい。現状アサシン職の報奨金が無いという事はお金がないという事なのだから、貰える物はありがたい。
でも男用と女用で違うんじゃ……まあ深く考えない方がいいのだろう。
ありがとうと言いかけた私の前に指をつきつけて「でも、条件付き!」と、トキは念を押す。
「歩いて扉から入ってこないとレア装備絶対あげないからね!」
死んだら導きの神官の元で蘇ると聞いた、死んで戻ってくるのだけはやめて欲しいと言う意味だろう、トキなりに心配しているのは感じたが反対はしなかった。
そういえば、鍵を貰っていなかった。
「そういえば、鍵……」
「嬢ちゃん!他の大陸に行くんやったら、知っておいたほうがええ事いっぱいあるでー!!」
グラさんは……色々語った………語った……
……四大国の気候や地域の特色について
……王族達の関係性について
……主要産業や技術者について
……各土地の名物料理について
……国ぐるみ大プロジェクト工事について
グラさんは語った……一気に語られたので内容を覚えていられる自信がないが、旅に出るなら重宝する情報だ……ただ、あまりにも…長い……
ぐぅ
唐突に鳴った私のお腹の音で、グラさんの長時間語りは止まった。
グラさんが腹減ったんやったら言ってくれればいいのにと、厨房へ移動していく。
トキに確認すると、3時間は経過していたとの事だ。
お腹の音を聞かれたと恥ずかしがる気力も残っていないほどの疲労感。
……トキ以上に喋る人は…はじめてかもしれない……
その後、お腹を空かせた私にグラさんが持って来たホットサンドとアップルパイと紅茶が絶品すぎて、色々と忘れてしまった。
これが毎日食べられるなら確かに専属家政婦にしたくなる気持ちも分かってしまう。
トキを見ると、これの為に生きていると言わんばかりに幸せそうにアップルパイをほおばっている。
すっかり忘れてしまった、鍵の件については、泊まる事を確認され大聖堂の客間使用許可を貰い、思い出したように教えて貰った。
鍵は、扉に手を添え、本人の声で4文字の合言葉を言えば開く仕組みだそうだ。
それはトキから洗礼を受け、魔法をかけられた状態で設定する必要がある。
指紋認証、声紋認証、パスワードの三段構えとは……以前いた私の会社より厳重だ。
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