第8話 事情がヘビィ口調はライト
グラさんが語ったのは、魔人討伐祝賀会の席で起こった事件についてだった。
最上級魔人アビスを討伐した英雄達は、その足で隣国のウィンダムへ戻り勝利を宣言した。
ウィンダム王国は英雄達を労い、そして長き戦いは終わったと、各国の要人たちを集め盛大なパーティを開いた
その、めでたい席で、要人の一人、ウィンダム大国の第一子王子が暗殺されたのだ。
王子は鋭利な刃物で心臓一突き、凶器は見つからず、死因は失血死。
宴のフィナーレに盛大な花火が打ち上げられた際の音に紛れた凶行だったのだろう。
事件が起こる前、ホールに集まっていた要人は屋上やテラスへと移動し、ホールの対応に追われる使用人のみがホールに残ったはずだった。
花火の時間になると、使用人も要人に誘われ花火を見る許可を得たため、ホールは無人に。
トキに同伴していたアサシンマスターのグラさんは花火打ち上げの際、花火より食べ物だとホールに残りホール片隅のバイキング近辺で料理を食していた。
その際、護衛に当たる兵士は要人のそばにいたためホール内に居た人間は、給仕を行っている使用人のみ。
その使用人も、花火の前に主たちに今宵は花火を見るよう呼ばれ屋上へ向かった。
その時のホールには、くだんの王子はいなかったらしい。
グラさんは味見をしている最中急にもよおし席を離れ、ホールに戻った時に、王子の遺体を発見した。
花火に夢中で誰もホールに倒れている王子に気づいていない様子だったと言う。
真っ先に疑われたのは第一発見者のグラさん。
アサシン職業であり、殺傷能力の高い刃物を所持している事が理由であった。
しかしグラさんの持っている刀と切り傷は一致しなかった。
凶器は見つからなかった。
それなのに、ろくな検証もされず、最も犯行可能な人物と言う事で、処刑が確定しそうになった。
その時、大神官に転職したトキが自分の管理下の人間だと主張して……今グラさんはここにいると自分の胸に手を当てる。
ふと私の頭に疑問がよぎった。
「…この世界では死んだら神官の元で蘇るって聞いたけど、その王子は蘇る事が出来なかったの?」
グラさんとトキが私を見て首を横に振る。
「導きの神官の元で蘇る事が出来るのは転生者のみ。こちらの住人は死んだら、蘇らない」
女神の加護は等しく発揮されるわけではないらしい。
私もまだこちらで死んだわけではないから分からないが、あちらで死を意識した感覚は忘れていない。
グラさんがそういえば、と手を叩いた。
「嬢ちゃん、もうちょっと話きいてんかー、久々に話せる思ったら気ぃ楽になるわ!」
グラさんの話はまだまだ続くようだ。
トキは「ここまで話しちゃったならもう仕方ない、アヤちゃんグラさんの話聞いてね」と、話を止めずに書類の押印を再開した。
話からさりげなく自分だけ離脱した。こ、こいつ…と思いながらも語り出すグラさんの話を聞くことにする。
情報は少しでも欲しいと思ったからだ。
しかし、聞き役に徹したのを後悔することになるとは、この時は思わなかった。
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