第6話 アサシンやってみない?

「似合ってるよ!」

エスカが笑顔で褒めてくれる。


初期装備は、皮で出来た鎧、銅の剣。

銅の剣は、剣と言うより、鈍器という感じだ。


回復用の薬数個と、小さな鞄も支給された。

ファイターは魔法で回復が出来ないので、回復薬の残数に要注意らしい。

トキから借りた服も鞄の中に収納した。


鞄はマジックバックという特殊な物で、主職業を選ぶとその職業マスターの管理する神棚のような所に現れると言うよくわからない仕組みだ。

Ayaと崩した文字で名前が縫われている。

小学生の持ち物に強制的に名前を書かれるあの感覚を思い出した。


どんな大きさの物でも、鞄の中に収納することができる優れもの。

屋外に出てエスカが得意げに、自分のマジックバッグに家を一軒出し入れした。

ドラえも……いや何でもない。


初期の鞄はそんなに数は入らないらしいが、家一軒収納できれば家の中に物を収納できるので、これで十分ではと思う。

ちなみに、人や動物、魔物等は入らないらしい……魔物入れようとした人いるんだ…。


レイチェルはエスカの道場に行く前に、弟子が駆け込み何か助けてくれとお願いされて別行動となった。

ティンカーは何かを思い出したように、ちょっと買い物してくると、住宅街の屋根の上へと飛び跳ねて行ってしまった。


そして今、私はエスカの道場の一角にある等身大藁人形の前に立っている。

「とりあえず試しに、これ切ってみて」


切り方など分からないが初めは自分の思うように動いてみて欲しいとのことだ。

何も分からないから適当にバッドの素振りのような感覚で人形を叩いた。

つもりが、人形が横真っ二つになった。


「!」

「銅の剣でこれを真っ二つに切るのは初めて見たけど、それだけアヤの特性とファイターが合ってるって事だよ、さあて、次の武器、何がいいかな」

エスカが自分のマジックバックから色々と武器を出す。


ナイフ、サーベル、レイピア、大剣、斧、ハンマー、日本刀…


「え?日本刀?」


「に?…ああ、これ?上級職のアサシンが好んで使う武器だよ。ファイターも最高レベルだと使える、アヤにはまだ早いね。扱いはアサシンの方が上かな」

「アサシン……暗殺者の職業?」

とても不穏な職業名出てきた。


エスカは暗殺者とは違うと首を横に振る。


「ファイターは敵の注意を引いて盾になる役割が多い職業。長期的に旅するなら回復にクレリック、攻撃や補助にメイジスカウト。スカウトは偵察役で先制攻撃できる、でも敵を仕留めるのは無理ね。アサシンだけが先制攻撃でしかも複数の敵を仕留めることが可能だよ。ファイターの力と武器を扱いスカウトの偵察能力と素早さを持ちメイジの広範囲攻撃が出来る攻撃のスペシャリストね、誰でも転職は出来ないけど」


「そうそうー」


いつの間にかティンカーが私達の間に割って、何かもぐもぐと食べている。

「食べるよねー?二人ともー」

ティンカーは薄い紙につつんだドーナツのような焼き菓子を私達に渡す。

飲み物を水筒から紙コップに注いで渡された、コーヒーの香りだ。


「アサシン職に就く条件はファイターとスカウトを極めたうえで、メイジの魔法もある程度必要、上位職は転生者が多いねー」

ティンカーが説明しはじめるころ私達はドーナツを食べているので無言になる。


「生まれながらにアサシンの特性を持つ人は例外だけど、一つの職業を極めると、別の職業がレベルダウンするのね。ファイターならスカウト、スカウトならクレリック、クレリックならメイジ、メイジならファイターが、レベルダウーン」


ティンカー……その手の動きは、地獄に落ちろという意味だよ……。


「転生者には主職業を極めた瞬間の他職業レベルダウンがないから簡単に転職できるの。私達が上級職に転職するなら、古の聖地まで行って洗礼を受ける必要あるけど……あー、私も人間種族だったらなぁ……。」

ティンカーが喋り終えてコーヒーを飲んだ。はーと言う一息は実は溜息なのかもしれない。


「昔はアサシンでないと倒せない魔物が大陸各地に居たけど、今は主職業で倒せない魔物は居ないし……時代は変わったと言えばそれまでなんだけど」

ティンカーは見た目10代に見えるがもしかしたら私より年上かもしれない。ふと真剣な顔になった時が、エスカよりも大人びているように思えたから。


「魔人アビスが倒れた今魔物も弱体化して脅威もないし。副職業で稼いだ方が豊かに暮らせるから、今アサシン職不人気すぎてマスター不在が問題なの……私とエスカが協力して転職希望者に試練を与えてるけど…本職じゃないから、試練途中で盗賊になる奴が何人かいてスカウトに不名誉な噂が流れてるのよ、やーだーもー」

盗賊…そんな目で見ていた……ごめん……ティンカー。


「…で、ここからが本題!」


ティンカーが私の手を祈るようにつかむ。真剣な目だ。

「ね、アヤちん、上級職のアサシン目指してみない?」

「え?」

「アサシンに転職したら、そのままマスターも目指してみない!?」

「ええー?」

「こら!」

エスカがティンカーの頭をぺちんと叩いて、私から引きはがす。


「だってー……紫は、アサシンの素質があるんだよー」

「……え?」


まさか私に暗殺者の素質があるとは。


紫…で思い出す、紫に一瞬染まった、トキの横顔。


「トキの炎の色で…紫があったけど…まさか……」


エスカが言葉の意味に気づいたようで、コーヒーを飲み干して答えた。

「大神官も昔アサシン時期があったそうだ、今は最高職の大神官だからアサシン能力は転職してしまってすでに使えないはずだが」


思った以上に幼馴染トキは、この世界でとんでもない奴になっていたらしい。


「アヤちん、お願い……アサシン職の補助があるだけでも仕事の負担が減るはずなの。あたし、スカウト全体の動きを把握しなきゃなんないしー……」

トキが盗賊と言っていたことが気にかかる。


これは確認した方が良いのでは、ティンカーがいつも眠そうなのは過労からかもと思うと不憫だ。


そういえば……主職業決めたら、自室に来いと言っていたのに、そのままエスカの所に来てしまっていたことを思い出した。

ついでだ、トキ本人にどうしてこうなったか情報を出来る限り聞いたほうがいい、と私はエスカにトキのもとに行く事を忘れていたと伝えて、トキの元に戻る事にした。


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そのころ、大神官様は数時間の待ちぼうけを食らっていたが、待たされている事など気にならないような、深刻な顔で考え込んでいた。

目の前に燭台でゆらめく炎がある。

それに手をかざすと、真っ白な炎から数秒ごとに色が変異していく。

紫からまた白に戻った所で、燭台をしまって溜息をついた。

「…特性って他人から譲渡できたんだ……知らなかった……やってみないと分からない事ってあるな……でも」


アヤの特性に黒の色があった事がトキの憂鬱の原因だった。

魔物の特性は黒がベース、転生者の特性は白ベース。


「どうしよう……これから……絶対何か抜け道あると思うけど、この職業だと外に中々出られないし……こまった」


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