追加 告白


「―― 今お茶でも淹れるから」


「お茶なら私が淹れるわ」



 と、匡煌さんに代わって私がお茶淹れ。

 

 

「今日、大地くんは?」


「あぁ、明日香んとこ行ってる」


「そう……」



 (じゃ、あんまり物音たてない方がいいね)


 明日香さんは匡煌さんの別れた奥さんで

 大地くんにとってはお母さん。

 匡煌さんと私の結婚に控え、大地くんを

 自分の所へ引き取るって言ってくれたんだけど、

 いつも素直な大地くんが珍しく頑固で。

 どうしても明日香さんとの同居を承諾しない。

 

 

 私はお茶を運んで匡煌さんと向かい合って

 座った。

 

 匡煌さんはそのお茶をゆっくり呑んで、

 またダンマリ。

 

 この理由……私は何となく分かるような気がしてる。

 

 従兄弟の圭介さんですら濁した事柄だもん、

 きっとそれだけ重大な出来事なんだ。

 

 それだけに圭介さんがそんな重い事柄を初対面の

 私に告げた意図が全く分からない……。


 私は少しでも彼の抱えてる荷物を軽くしてあげたくて

 彼の隣に座り直し、彼の腰にそっと手(腕)を

 回した。

 


「……ね、匡煌さん」


「ん」


「……そんなに言い難い事なら、無理しないでいいよ」


「かず……」


「私もね、あなたの笑った顔が一番好きなの」



 匡煌さんは、一瞬ポカンとして、

 それから弾けるように笑った。

 

 

「……ったく、和巴にゃ敵わん」


「あら、今頃わかった?」


「……ホテルのテラスでお前が俺に聞いた事、

 俺が実家を出た理由、まだ、知りたいか?」



 !! やっぱり……

 


「だからそれは ――」


「男関係だ」


「は……?」


「男と付き合ってる事が親父にバレて無理やり

 留学させられた。要は体(てい)の良い厄介ばらい

 だな」



 私は体の向きを変え、匡煌さんの目を真っ直ぐ

 見つめた。



「つまり、宇佐見匡煌は男もイケるってタチなわけだ。

 明日香との結婚が破綻したのも、向こうの親にそれが

 バレたから」 



 って、匡煌さんは軽い感じで言ったけど、

 膝の上で組んでる手は微かに震えている。

 ホントに哀しそうに、何だか何もかも

 諦めたようなほほ笑みを浮かべた


 

 私はどんな言葉をかければいい?

 どう、彼に接すればいい?

 


「あれ以来何ひとつっつーか、恋愛そのものに

 臆病になってな……だから、お前に思い切って告って

 拒否された時はマジ凹んだ。でもお前が拒んだのは

 恋人として俺と付き合う事で。俺という人間じゃ

 なかった」

 

「……」


「それが飛び上がるくらい嬉しかった」

 

 

===============



 私が晴彦に別れを告げたあの夜 ―― 


 家の近所の公演で匡煌さんが言った

 


『俺と付き合って欲しい。もちろん結婚を前提

 とした真面目な交際だ』

 


===============


 

 あの言葉にはそれだけの重みがあったんだ。

 

 なのに、それを私ときたら……

 

 急に私は自分が情けなくて、恥ずかしくって。

 

 顔を伏せた。

 

 自然に涙が溢れ出てくる。

 

 

「な ―― なんでお前が泣くんだよ」



 そうゆう匡煌さんの声も掠れてる。

 

 

「泣くなって。俺が虐めてるみたいじゃん」


「……わたし、あなたと逢えて本当に良かった」


「和巴……」



 私は顔を上げ、もう1度ちゃんと匡煌さんの

 目を真っ直ぐ見つめこう言った。

 

 

「匡煌さん、結婚を前提として付き合って下さい」


「……」


「お返事は?」



 涙を拭った彼の顔がゆっくり近づく。

 

 そして、いつものちょっと皮肉っぽい笑みが

 口の端に浮かぶ。

 

 

「キスしてもいいか?」


「ふふふ……なんて言って欲しい?」


「今拒んだらお前は一生後悔する」



 私は自分から彼の肩口へ腕を回した。

 

 

「……今夜、泊まって行っていい?」



 彼はその返事の代わりに、

 熱く深い口付けをくれた。   

   



*****  *****  *****




「はっあん……あぁ、んん……はぁ……」


「あ ―― か、かずはー?」


「……んー?」


「もうすこーしだけ声、落としてくれると有り難い」



 そう言った匡煌さんに疑問符一杯の視線を向ければ。

 

 彼は悪びれた様子もなく、こう言い放った。

 

 

「やっぱ真夜中は声も通るし、8才児にゃまだまだ

 刺激が強すぎる」

 

「へ? それって、まさか……」

  


 匡煌さんは、私の首元へ顔を埋めるようにして、

 付けた唇で ――

 

 

「っっ! マークはつけないでって ――んんっ! 

 あぁぁ、ん……ひゃあ……」


「だから声は抑えてって言ってるでしょ」



 そんなこと言うなら自分だって……

   

 私はただ身体をくねらせる事でしか、この快感から

 逃れる術はなく。


 だんだん息が上がって、

 目だって焦点が合わなくなってきた。


 そんな、恋人同士・愛の営みの真っ最中。



 ―― ガチャリ



「ん~、おとうさん……おきちゃったぁ……

 いっしょにねてい?」


  

 大地くんがお気に入りのホワイトタイガーの

 ぬいぐるみを手に寝室へやってきた。



「だいち、くん……」



 私は超慌てた。

 けど、匡煌さんは意外と冷静で、

 私に布団をかぶせると、自分はベッドの下にあった

 スウェットを手早く履いて、大地くんを抱き上げた。



「どうした? 寝れねーか?」


「うん……」


「本読んでやるから、部屋行くぞ」



 そう言って匡煌さんは大地くんを抱えて寝室を出て行った。



「……」


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