追加 初めて彼を遠く感じた
各務グループの御曹司かぁ
(次男坊らしいけど)……。
この場に馴染んで当たり前だ。
彼 ―― 匡煌さんは生まれながらにこっちの
ステージの人だったんだから。
私らみたいな庶民とは本来住む世界が違ったんだ。
!!――住む世界が違う……それを改めて認識し、
胸の奥がチクリと傷んだ。
や、やだ、私ってば、何今さら傷ついてるんだろ。
『――こんな所にいたのか』
私は慣れないパーティーの人混みで火照った体を
クールダウンさせながら。
人気のなくなったテラスで眼下へ広がる
素晴らしい夜景をぼんやり見ていた。
「ちょっと、人混みに酔っちゃったみたい……」
匡煌さんも私の傍らへ並んで立った。
眼下の夜景を見下ろして。
「うん。なかなかの眺めだ」
「え、えぇ、そうですね」
予期せずして彼とこうして2人きりになって、
さっき圭介さんに教えられた事が不意に頭の中へ
思い浮かんだ。
”――10代の後半で実家から飛び出して
しまってね”
「あ、あの、どうしてご実家を出られたんですか?」
瞬間、 彼の瞳に暗い影がさした。
「――圭介が言ったのか」
「ご、ごめんなさい、立ち入った事を……」
彼はしばし、とても哀し気な視線でじっと前方を
見ていたけど、いきなり私の腕を強く掴んで
自分の方へ引き寄せた。
「ま、匡煌さん ――っ!?」
「…………」
「知りたいか? 取り繕ったええ格好しーの俺ではなく
素の宇佐見匡煌を」
「えっ ――」
「知りたいなら教えてやる。だが、全てを知りたいなら
それなりの覚悟を決めろ」
こ、こんな匡煌さん初めて見る……
こ、怖い――っ。
「そんな、覚悟だなんて……」
「すまん……俺も酔ったみたいだ」
「(うそ、今夜はお酒なんか一滴も飲んでない
くせに)……」
「そろそろ帰るか」
と、匡煌さんは唐突に踵を返し無言で
足早に出入り口へ向かい、戸口に差し掛かった所で。
「置いてくぞ」
私も慌てて彼の後に続いた。
***** ***** *****
ホテルの地下パーキング。
一隅で、私は壁に追い詰められた恰好で
匡煌さんに口付けを迫られた。
(俗に言う”壁ドン”ってヤツ)
「いきなり、こんなの反則――」
「して欲しそうだったから」
恥ずかしさにぽっと火照った顔は伏せがちに
匡煌さんを押し返した。
「じゃ、して欲しくはなかったか」
「もうっ、いけず……」
匡煌さんはふふっと笑って
私のおでこへチュッとキスを落として。
「そうあからさまにビビるな、
何も捕って喰おうってんじゃない」
と、私から離れ自分の車のロックをリモコンキーで
解除。
「送って行く」
私はその匡煌さんの背をぼんやり見つめ
心の中でそっと呟く。
”何か、余裕よねぇ……”
匡煌さんの車で実家まで送ってもらう途中の車内。
私は車窓に映る運転中の匡煌さんの凛々しい横顔を
見つめながら考える。
”ああゆう時、年の差と今さら縮めようもない
ジェネレーションギャップを痛感してしまう。
私なんか、出逢って以来ずっと彼の一挙一動に
振り回されっ放しなのに……さっきのキスだって、
そう。
だから、べべ、別に不安ってわけじゃ……”
=== === ===
「知りたいか? 取り繕ったええ格好しーの俺ではなく
素の宇佐見匡煌を」
「えっ ――」
「知りたいなら教えてやる。だが、全てを知りたいなら
それなりの覚悟を決めろ」
=== === ===
覚悟を決めれば、匡煌さんと私の関係も進む――?
自分が思い浮かべた”関係”という単語に、
かぁぁぁっと頬が染まる。
関係って、私ってば、何考えてんだろ……。
自分の心の中だけで勝手に妄想全開状態になりかけ、
ますます赤面。
「――さっきから1人で何やってる?」
笑い含みの問いかけと共に、ニュッと伸びてきた
左手でクシュクシュと頭を撫でられた。
「あ、べ、別に何も……」
そうやって慌てて否定する様も彼にとっては笑いを
誘うものだったらしく。
苦笑する彼の目尻には生理的な涙が滲んでた。
「ホ、ホントに何でもないんだからぁ」
「そうか そうか ―― 分かってるって」
「もう……全然分かった風じゃないし……」
*折すれば匡煌さんのマンション、
このまま直進すれば私の実家方面へ向かう
交差点の信号で停まった時、
フッと彼が真顔になった。
「……もう少し、付き合えるか?」
「え ―― あ、うん」
「じゃ、先、俺のマンションに行くから」
「……」
基本的にいつもちょっと皮肉っぽい笑みを浮かべた
匡煌さんが急に真顔で黙り込む。
マンションについて、エレベーターに乗っても
なんだか今の匡煌さんは”話しかけるな”オーラを
まとっているようで、いつもみたく気軽には
話しかけられない。
真っ直ぐ前を向いたまま、何かを考え込んでいる
様子だったのが気がかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます