第48話 卒業式
『―― 答辞、卒業生代表、
国枝利沙』
と、マイクを通した声がホールの中に響き渡る。
「はい」 はっきりと返事をして利沙は
立ち上がった。
すると、後方の父兄席の方から利沙の母や父、
兄弟達が発した、
” いよっ、待ってました!”
”りーちゃん、日本一っ!”
等という、利沙を讃える声と口笛が周囲の人々の
苦微笑を誘う。
”もう ―― っ、おとんってばぁ、
あれほど、目立たんでって言うたのにぃ……”
国枝は利沙を大声で褒め称えながら、
ワンワン泣いて隣の元妻に慰められてる。
互いの価値観の相違ってやつで離婚はしたが、
似た者夫婦、まだまだ男女仲は新婚当時のように
アツアツなのだ。
隣を見れば和巴も俯き笑いを堪えている。
気を取り直して ――、
利沙は、少し胸を張ってピンと背筋を伸ばし、
しっかりとした足取りで進んでいった。
そして、壇上の演説台の傍らでにこやかな
微笑みをたたえ待っている学院長・大林と
軽く握手を交わし、演説台のマイクへと向かった。
「―― 本日は
第65期卒業生の為このような心のこもった式典を
挙げて頂き誠に有り難うございます。
また、ご多忙の中をご出席下さいましたご来賓の
皆様、学院長先生始め諸先生方、並びに関係者の
皆様に卒業生一同、心から御礼申し上げます」
――(中略)――
「これから我々は、一人ひとり自分の選んだ道に進んで
行きます。自分の選んだ夢に向かっていく道のりは、
決して楽なものではなく、時には迷ったり、
嫌になったりする事もあると思います。
そんな時には、この大学で過ごした4年間の事を。
そして、みんなで喜び合ったり、悩んだり、
精一杯向かった体育祭や文化祭などを思い出します。
そして、こんな自分達でもかっこいいと思って、
その後を歩んでいる後輩がいる事を絶対忘れません。
最後になりましたが、諸君と最後の学生生活を満喫
できて楽しかったです。
たくさんの思い出をどうもありがとう。
まだまだ、未熟未完成の私達故、
卒業後もよろしくご指導ご鞭撻下さい。
本日は本当に有り難うございました。
皆様方のご活躍をお祈りし御礼の言葉とさせて
頂きます。卒業生代表、国枝利沙」
列席者達からの暖かい拍手が会場を包むよう
広がってゆく。
利沙は演説台から一歩下がって列席者達へ一礼し
大林へも一礼して
ステージから下り、自分の席へ戻った ――
卒業式だけは各学部と共催なので
数百人単位の学生及びその父兄達が大挙して
集まった。
父兄として出席した兄達がとても興奮しながら
「あんなに天使の輪が並んでいるのを始めて見た!」
と言ったくらい黒髪をツヤツヤさせた女子が
たくさんいた。
本当に自慢の母校だ。
場を乱すような人もいないので、
卒業式は滞る事なく厳かに進行し。
感極まって涙する人の姿も見られた。
和巴も利沙も胸がいっぱいになり込み上げてくる
ものをグッと堪えた。
そうしていよいよ、卒業生の退場だ。
涙の残る顔、湿っぽい顔をみんなで見合わせ
「ニヤッ」と笑う。
ここからがある意味、本番だからだ。
司会役の1年生の号令で一礼し、
席順に中央通路へ移動していく。
在校生達は一様にざわつき、ソワソワしだす。
卒業生が在校生の横を通るちょうどその時、
在校生の頭上に向かってたくさんの
飴やチョコやお菓子を放り投げ始めた。
ワーッと皆で手を伸ばしそれらをつかんだ。
その次の集団も、またその次の集団も、
お菓子の雨を降らせてくれる。
一体、その晴れ着の何処にこんなにたくさんの
お菓子を隠しもっていたのだろう?と
不思議に思うほどだった。
時にはコンビニのおにぎりも降ってきて
取り合いになった。
誰もがニコニコと笑っている。
とても晴やかだった。
卒業は終わりではなく始まり。
その言葉がピッタリと当てはまる、
そんな門出の日だった。
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