第47話 ラブ・イズ・オーバー
和巴の後を追いかけたけど、通行人が邪魔をして
匡煌は和巴の姿を見失った。
まだ心臓が激しく脈を打っている……。
体の震えも止まらない。
久しぶりに見た和巴は変わっていなかった。
話したかった……抱きしめたかった。
忘れる事なんか出来るハズがない。
こんなにも和巴を心から愛しているのにっ。
匡煌は強引に気持ちを切り替え、
本屋で静流の用事を済ませ会社へ戻った。
*** ***
何も言わずに執務室へと入った匡煌を不審に思い、
静流が後に続く。
「―― ありがと、
結構気持ちよかったでしょ? 外も」
分厚い本の入った袋を受け取った。
「まぁ、な。気分転換にはなった」
「お祭りは6時スタートだから、
5時半位に迎えに来るわね」
と、静流は戸口へ向かう。
「―― かずと会った」
「!!……それで?」
「追いかけたけど逃げられた」
「あっちは若いのよ、
親父のあんたが敵うわけない」
「……あのまま1人逃げて、
各務とも一生縁を切ろうかと考えた」
「バカ言ってんじゃないのっ。今さら何よ」
「分かってるさ。冗談だ、冗談……」
ため息をつきながら出て行った静流を確認すると、
匡煌はぐったり椅子に沈み込んだ。
あの時、躊躇せず和巴を捕まえていたら。
その足で東京を――日本を飛び出して行けたのに。
各務を捨て、ずっと一緒にいられたのにっ……。
叶わぬ事とは分かっている。
和巴がそれを許さない事も分かっている。
それでも俺は和巴と一緒にいたかった。
女々しく泣き出しそうな顔を両手で叩き活を入れ、
匡煌は残りの仕事を再開した。
***** ***** *****
「―― ごめんねぇ、
ちゃんと家で飼ってあげられればいいんだけど
今の住んでるとこ、ペット禁止だから」
ここはシェアハウスへ帰る途中にある
小さな児童公園。
ミケの仔猫が妙に懐いてしまって。
あさひ亭からもらっておいた残飯を与えている。
「じゃあ、また明日」
そう言って和巴は仔猫に手を振り、
ベンチから立ち上がった。
その時 ――
「―― かずは?」
聞き慣れた優しい声に、ビクンッと立ち止まる。
「かず……」
(う、そ……)
和巴は振り返らずにとっさに駈けだした。
「待ってかずっ! 逃げないでくれ!」
(どうして? どうして匡煌さんがここに……?)
「かずっ ……くそっ」
匡煌は無我夢中で和巴の後を追う。
(お願い ―― 私の事はもう放っておいて)
カンカンカンと鳴り降りる遮断機。
「和巴っ」
「来ないでっ!!」
降りてきた遮断機の下をくぐり、向こうの道に
出る和巴。
「和巴っ!」
匡煌がやっと遮断機に着いた時、
電車はすぐそこまで来ていた。
「聞いてくれ、和巴、俺は ――」
「何も聞きたくない。あなたは私なんかに
関わってちゃダメなの。
私はもう……貴方の事なんて好きじゃない
何とも思ってないから」
「嘘つけ。なら ―― なら、
なんで泣いてるんだっ」
和巴の頬に熱い雫がツツッ ――と、落ちる。
「泣いて、ないっ」
「頼むから、もう1度だけ俺にチャンスをくれ」
無情にも2人の間を電車が駆け抜ける。
「あぁ、くそ……っ」
イラつく匡煌。
電車が駆け抜け、匡煌が遮断機を持ち上げた時
……既に和巴の姿はなかった。
「かずっっ!!」
匡煌は和巴の立っていた場所でキョロキョロと
辺りを見回す。
「かず、どうして……」
和巴はひたすら走り、ハウスの階段を
駆け上がって部屋の中に入った。
ハァハァと息を吐き、ズルズルとその場に
座り込む。
ガタンガタンと電車が通る度に、
カタカタと揺れる窓のサッシ。
『今は裁判所へ提出する嵯峨野書房の再生計画案の
作成で手いっぱいだろうから』と、
完全に油断していた。
もしかすると、今月末なんて悠長な事は言わず、
明日の卒業式が済み次第旅発つべきなんではないか?
と、和巴は考え直していた。
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