第49話 卒業式 ②
表では先に退場した卒業生や在校生達が
皆んなで写真を撮り合ったりしている。
親(父兄)達もホールから出始めていた。
暖かい、良く晴れた日。
少し風が強くて、今を盛りと咲き誇っている
早咲きの桜も5割方散り始めている。
でも、昨夜まで降り続いていた雨も朝には
跡形もなく晴れ上がり、
卒業式にはうってつけの天気だった。
「―― よっ、和巴」
と、肩を叩いて来たのはあつし。
6対4の割合で男子の方が多い
今回の卒業生の中でも群を抜いて目立つ
美丈夫。
「さっきのスピーチ、なかなかのもんだったぜ」
演台に立ったのは利沙だが、スピーチの原稿を
書いたのは和巴だった。
「そーお? サンキュ」
「で、今夜の送別会、もちろんお前も出るだろ?」
「場所、何処だったけ?」
「幸作の家。飲み放題食い放題で会費は千円ぽっきり、
どうよ?」
「そーだなぁ……皆んなでわいわい気兼ねなく
騒げるのも今のうちだよねぇ……」
するとその時、校舎の方から群れをなして
女子達がこちらへやって来るのが目に入った。
『 森下せんぱ~い!! 』
それを見たあつしは一気に色を失くす。
「げっ。もう、勘弁してくれよぉ ――
ちょっくらオレふけてくるな」
と、あの女子達から逃げるため一目散に
走り去った。
そんなあつしと、追っかけの女子達を
苦笑しつつ見送る。
「―― かーずぅぅ、こんな所におったんかぁ、
わい、めっちゃ探したんやどー」
そう言って、ネコ並みの人懐っこさで
背後からヒシっと和巴へ抱きついてきたのは
鮫島 《さめじま ゆうたろう》祐太朗。
因みに煌龍会の二次団体・鮫島組の次男坊
である。
「どわっ。あんたねぇ、ええ加減そうやって人に
ベタベタまとわりつくんは止めてぇな。うざいっ」
「グサッ!! ……今のひと言マジ傷ついた……」
そこへ
『ゴルァ!! ゆうっ。てめぇまた和巴に
しょうもないちょっかい出してたのか?! 』
と、先ほどの女子達をようやく撒いてきた
あつしがやって来た。
「いい加減にしねぇと、そのうちマジうちの親父に
ぶっ殺されるぞ」
「ふーんだ。どうせわいの事なんか眼中なかった
くせに偉そうな事言うなや」
と、祐太朗は拗ねたようにそっぽを向いた。
「ほら、コレ、約束の」
と、あつしは祐太朗の手に何かを握らせた。
開いた祐太朗の手のひらにはスーツの
前ボタン(第2ボタン)。
一瞬、祐太朗は物凄く嬉しそうに顔を
ほころばせたが、またすぐに元の仏頂面に戻る。
「こんなもんだけじゃ誤魔化されないんだから」
「だからぁ、送別会が終わったら今夜は
東京のラブホでしっぽりと。な?」
「…………」
周囲にいる学生達が一様にざわつき始める。
その原因は、正門に前の路肩に停車した
クラウン・マジェスタの運転席から降り立った
スーツ姿の匡煌。
手にアネモネとラベンダーの花束を持っている。
それぞれの花言葉は ――
固い誓い・極限の愛・あなたを待っています。
『うわぁ ―― めっちゃイケメン!』
『誰の出迎えだろねー』
『あれっ、あの人の事どこかで見たような……』
『んな事どうだってかまへんわ。
あとで写メとっちゃおーっと』
匡煌が一歩 一歩、自分に近づいてくる度、
和巴の鼓動は打つスピードを速める。
和巴はそれに耐え切れなくなって、
踵を返そうとするが、
あつしと利沙がそれを制止した。
「!!……」
「逃げちゃダメ」
「男がさ、花束なんか持って来るって、
並大抵の覚悟じゃないと思うぜ」
匡煌が和巴の前にピタリと立ち止まったところで、
あつしと利沙と祐太朗は校舎の昇降口へ去る。
しかし、今や2人は生徒達の注目の的だ。
「……少し、時間あるか?」
「……う、うん」
2人はどちらからともなく、
路肩に停車中の匡煌の車へ向かう。
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