第40話 和巴の決意
『―― 今から実家へ行って、両親にお前の事を
全て話すつもりだ』
昼食後、食休みがてらPCメールのチェックをしていた時、
匡煌さんからそんな携帯メールを受信し、
私は慌ててコールバックした。
「もしもし、匡煌さん?
お願いだから早まらないでっ」
『早まるなってのは、何だよ~。
俺としちゃあコレはちゃんと計画してた事だ』
「でも、抜き打ちみたいなやり方は酷いよ。
私にも事前に相談くらいはして欲しかった」
『相談したら、お前は今みたく大騒ぎして止めたろ?』
「!!……」
『心配すんな。多分、夜には朗報を届けてやるよ。
待ってろ』
通話が切られても、動けなかった。
匡煌さんの試みは絶対失敗する。
だって、広嗣さんは何が何でも匡煌さんを
神宮寺のお嬢様と結婚させる気だもん。
ご両親だって我が子が女子大生なんかに
入れ上げるのを許すハズがない。
それにあの神宮寺氏自身も、そんな事を知れば
黙ってはいないだろう。
自分が身を引けば、全ては丸く収まる。
もしかしたら、
事態はそんな簡単な問題じゃないのかも
知れないけど、私がこのまま匡煌さんについていれば
彼はますます暴走する。
とりあえず、彼の元から離れなきゃ。
上京するまでの寝床を確保する為、
利沙へ連絡をとろうとした時、また、
匡煌さんから着信が入った。
彼の声は暗く沈んでいた。
『……ごめんかず、今夜は帰れない』
「……話したの?」
『あぁ……大喧嘩になったよ。
ま、元々素直に認めてもらえるとは思っちゃ
いなかったが、ハードルはかなり高い……でも
どんなに時間がかかろうと説得するつもりだ。
待ってて欲しい』
「……」
『……待ってて、くれるか?』
彼の縋ってくるような声に、涙がこみ上げる。
「……OK。待ってるから、早く帰って?」
『愛してる、和巴』
私はそのままトイレへ逃げ込んで、泣いた。
匡煌さん……今の私にあなたの全てを
受け止められる器量はありません。
洗面台で顔を洗い、
鏡に映った自分に向かって言う、
「コラっ。しっかりしろ、和巴」
自分で自分を叱咤して。
各務グループ本社へ電話をかけた。
『はい、株式会社各務でございます』
「専務の各務広嗣さんにお取り次ぎ願えますか」
『恐れ入りますがどういったご用件でしょう?』
「小鳥遊とお伝え頂ければお分かりになると
思います」
『少々お待ち下さい』と機械的な返答の後、
保留音が流れてきた。
待つこと数分 ――
『お待たせ致しました、私各務の秘書をしております
高田と申します』
「小鳥遊と言います。突然で申し訳ございませんが、
今日各務さんはお時間おありでしょうか?」
『あいにく本日はスケジュールが詰まっておりますが、
明日の午後3時にこちらへお越し頂くお約束でも
宜しいでしょうか?』
「はい、結構です。では、明日の午後3時に」
電話を切って、大きく息を吐いた。
これでいいんだ、もう、後戻りは出来ない……。
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