第41話 持つべきものは友
今夜匡煌さんは帰って来ないので、
マンションへ帰って早々荷物の整理を始めた。
元々、実家から移してきた物がごく少量だったので、
意外に早くカタはついた。
後はこのまとめた荷物を宅急便の集配係に託す
だけだ。
匡煌さんから買ってもらった服やアクセは
全て置いていく。
中でも、かなり置いていくのが辛かったのは、
誕生日にプレゼントしてもらった、リング。
もらって以来、ずっと肌身離さず首から
ぶら下げていたんだ。
匡煌さんからまた連絡が入ると、
泣いてしまいそうで怖かったのでスマホの電源は
切ろうとしたら、利沙から着信が入った。
今近くまで来てるから寄ってもいいか?
というので、私も色々今後の事を話さなければと、
OKした。
数十分後 ――
「差し入れだよ~」
部屋へ入って来たあつしが高々と掲げた小袋は
浅草の有名和菓子店「舟和」のもの。
「あー! もしかして、芋ようかん?」
「あったりー」
「サンキュ」
東京からきたお客さんのお土産らしい。
濃い目のほうじ茶をすすりながら、
大好きな和スイーツを食べ至福のひと時。
「―― 交換留学の話しはお断りして、嵯峨野書房へは
予定通り入社するよ。但し東京支社に配属願い
しようと思ってる。もう、ここにはいられないから、
現地へ行くまで住めるとこ国枝の小父さんに
世話してもらえないかなって」
「うん、お父さんならオッケーだと思うけど。
どうせだから出発するまでここに置いてもらえば
いいじゃん」
「もし、小父さんに心当たりがなくても、明日には
ここを出る」
「……彼と何かあったの?」
当然の質問だ。
利沙をここへ呼んだ時から、
全てを打ち明ける覚悟は出来ている。
私は、匡煌さんと同棲するようになって、
今、どういう問題に直面しているかを
かい摘んで利沙に説明した。
「……笑っちゃうでしょ……結局私はまた、
逃げる事しか出来ないの。軽蔑、する?」
「今さら何よ。私はあんたが晴彦の時とは違って
真正面からきちんと恋愛してて、何となくホッと
したよ。もっとも私しゃてっきり宇佐見さんと
和巴はこのままゴールインかなって思ってたん
だけど」
「そっかぁ……利沙にも心配かけたね、ごめん」
「いいってことよ~、あ、そうそう、
新しい寝床だったね」
利沙は早速小父さんに連絡を取り、
手頃な間に合わせ物件を探してくれるよう頼んで
通話を終えた。
「何かさ、もう、和菓子とお茶だけじゃ物足らなく
ない?」
「ふふ、そろそろそう言う頃だと思った」
私は酒屋のおっちゃんから貰った
越後の銘酒・純米大吟醸「細雪」を持ってきた。
「おぉ! さすが和ちゃん、気が利くねぇ」
早速、2つのコップに注いで乾杯した。
「あっちに行っちゃうと、こんな風にしょっちゅうは
飲めなくなるんだよねぇ~……」
染み染みと呟いた利沙の言葉が、
胸にジ~ンと沁みた。
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