第35話 パーティー ②


『あ~ら、和ちゃ~ん』



 背後から随分と馴れ馴れしく声をかけられた。

 少々ムッとして振り向けば、それは、

 珍しくフォーマルに着飾った国枝 静流くにえだ しずるさん。



「しずる、先輩……」


「楽しんでるぅ~?」


 彼女は利沙・あつし姉弟のお姉さん。

 総合商社『各務』本社の人事部勤務。


 女の子らしくお洒落してる先輩を見るのも、

 こんな公の場でここまで酔ってる先輩を見るのも、

 久しぶりだ、


「あー、そうだぁ。ゴールデンウィークの旅行で

 買ってきてあげたキムチと韓国海苔、食べたー?」


 って、それ、何ヶ月前のハナシですか?


「あ、えぇ、頂きました。美味しかったです」


「でしょ、でしょ~う? 

 この静流さんが買ってきたんだもの

 美味しいに決まってるじゃない」


「あ、ところで先輩……かなり酔ってます?」


「へへへ~、ちょーっとね」


 何処がちょっとよ?

 大トラになる一歩手前じゃんか。


「潰れる前に帰った方がいいですよ?」


「だーいじょーぶー、今日はナイトも一緒なの」

  

 なんて、笑っていると ――



『―― 静流』


 と、彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 振り向くと、40代前半位の男性がやって来る。


 どことなく、匡煌さんや大吾先生に似てる……


「あー、紹介するわ。私のフィアンセ・各務広嗣かがみ ひろつぐって

 いうの。ヒロくん? 彼女が可愛い後輩・

 小鳥遊和巴よ」


 各務だって?! 似てるハズよっ。

 匡煌さんのお兄さん。

 (匡煌さんのご両親も離婚していて、

  匡煌さんはお母さんへ引き取られ

  現在・宇佐見姓なんだ)

  

 株式会社・各務の次期社長。

  

 うわぁ~……なんか、威圧感とセレブオーラが半端ないな。


 先輩がいつの間にか婚約してたって事にも

 驚かされたけど。

 まさか、その相手が各務家の長男だったとは

 2重の驚きだ。


「―― キミの事は静流から色々聞いていました。

 真面目で勤勉な上にとても優秀な学生だとか」


「いえ、買い被りです……」


「来年には弟もいよいよ家庭を持ち、

 何かと忙しくなるだろうから、

 支えてやって欲しい」


 え? 弟も、家庭を ―― って、

 大吾先生はもう**さんと海斗くんがいるから。


 じゃあ……?


「あら、ヒロくんったら何も今言わなくたって……」


 それ、どーゆう意味?


「何故だ? おめでたい事なのだから何も不都合はない

 だろう?」


 と、彼は私に視線を移した。


「なぁ? 小鳥遊くん」


「え、ええ……」


 私はもう、頭の中が真っ白になりかけで、

 そう応えるのが精一杯だった。


「早く結婚をして落ち着いてくれた方が、

 部下達にとってもいい事なんだ。小鳥遊くん、

 キミもそう思うだろ?}


 にこやかに、ほほ笑みを絶やさず、

 私へ語りかける広嗣さんは ――

 恐らく、いや、ほぼ100%匡煌さんと

 私の関係を知っている。

  

「……おっしゃる通りだと思います」


 それから後、この広嗣さんと別れるまで

 何を話したか? そして、このホテルから

 自宅へ帰るまでまるで、覚えていない。


 結婚 ―― 匡煌さんが結婚。


 ただその言葉だけが、脳裏にこびり付いて

 離れなかった。

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