第22話 宇佐見さんが、好き?
応接室キッスから数日経ったある日――
午後8時50分。
お店の前にある
第*オープンセットで行われるクランクアップ後の
簡単な打ち上げに千早姉と皓さんも招かれている
というので、いつもより1時間早い閉店。
「いってらっしゃ~い、
あんまり飲み過ぎちゃダメですよ」
「あぁ、わかってる」
2人を送り出した、
それから大体30分あとくらい ――
1人のんびり閉店作業をしていると、
カラン カラン ――――と
ドアのカウベルが鳴って来客を知らせた。
「あ、すみません、今夜はもう ――」
と、私が言葉を切ったのは、
本当に慌ててやって来たって感じの宇佐見さんが、
息せき切って戸口に立っていたから。
「あ、あの……」
「まだ、仕事は残ってるの?」
「あ、えっと、後は電気消して戸締まりだけ、です」
「じゃあ、これから俺に付き合ってくれるね」
「は?」
「いや?」
「別に、構いませんけど」
*** *** ***
宇佐見さんは店を出るなり、
私を先導するようすたすたと歩き始めたので、
慌てて店の戸締まりをして小走りでついていく。
「あ、あのどこへ……?」
―― ぽ、
ありませんように!
如何せん、まだ今は心の準備が出来てない。
宇佐見さんは黙って路肩でタクシーを拾い、
私を先に乗せてから入ってきた。
そして、運転手さんに告げた行き先は”
「間に合うといいけど……」
宇佐見さんは独り言のように呟いて、
ぽふっと、シートに背を凭れかけさせ、
横目で私を見た。
「(緊張)……」
「あ、そんなに警戒しなくていいよ。
俺だってしょっちゅう欲情してるわけじゃない」
あ、そうですか……ちょっと気落ちする私。
「フィガロから清水寺だったら歩きでも行けたけど、
歩きながらじゃこんな事は出来ないでしょ」
こんな事って? と思っていると、
宇佐見さんの顔が近づいて来た。
えええ ―――!?
タクシーの中では、
まずいでしょう……と思ったが、
既にクランクアップの打ち上げで
ほろ酔い加減の宇佐見さんは
何時にも増して色っぽく、
抵抗できるわけなかった。
まだほんの小娘で、最近こんな事にはとんと
ご無沙汰の私には軽く許容範囲超過の
いきなり舌が入って来るような濃厚なキス。
宇佐見さんは私が抵抗しないと見ると
左右に手をつき、深く長いキスをくれた。
思わず両手を彼の背に回してしまう。
思ったよりガタイがいい。広くて、厚い胸板。
―― キスでもエッチでもなんでもいいから……
このまま宇佐見さんと一緒にいたい。
なんて、思えてしまうほど……
「……も、勘、弁……」
「これでも俺は抑えてんだぞ」
キスの合間・合間に交わされる会話 ――、
「だって、こんなの……」
宇佐見さんは慣れてるっぽいけど、
既に私は息も絶え絶えで ――、
「こんなのが、どうした?」
「むり……っ」
「ま、そう言わずもう少し付き合え」
運転手さんも呆れるくらい、宇佐見さんの深く優しいキスは
目的地・清水寺へ着くまで続いた。
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