体育問題

俺が通うこの高校は、全校生徒数1200人中なんと男性は200人しかいない。

事実上のハーレム学園なはずなのだが……。


「はぁ、はぁ、ちょっと……ごめん……やすませて……。」


「え~、まだ一キロしか走ってないよ。」


日曜日の早朝、俺は体力つくりの為に近所の河川敷にジョギングに来た。

俺の目の前には、特に呼吸も乱さず平然とした顔で汗を拭う少女の姿がある。

こいつは俺の数少ない中学時代からの女友達だ。

彼女は俺が最近運動不足なのを見かね、一緒にジョギングしようと提案してくれた。

受験勉強で身体がなまり、さらに一人暮らしで怠惰な生活を送っていた俺の体重は増加の一途をたどっていた。さすがに腹回りが気になりだし、ダイエットを考えていた矢先なので非常にありがたい話だった。

彼女はウエストバッグからスポーツドリンクを取り出す。

蓋をキュッと捻り、少し口をつけるとそのボトルを俺に手渡した。


「はい、君も水分摂ったほうがいいよ。」


チャポンと音を立てたボトル、俺はそれを受け取り一気に飲み干した。

水分を補給し一息つくと、中学時代に比べて加速度的に体力が低下しているのを痛感する。


「はぁ、陸上部にでも入ったほうがいいのかな。」


「そういえば、陸上部のキャプテンは美人さんだったもんね。」


彼女が俺の思考を先回りして解答する。


「俺の心を読まないでくれるか。」


「だって、君が考える事だもん。」


陸上部のキャプテン。黒髪の短髪が似合うスレンダーで活発な女性。

放課後のグラウンドを疾走し、笑顔する彼女に俺は一発で虜になった。


「やはり、高校生たるもの部活動に精を出し、青春の汗を流すべきではないかと思っただけだ。」


「それで、同じ部活で苦楽を共にし、あわよくばキャプテンと交際したいと。」


「俺の心を読まないでくれるか。」


「だって、君が考える事だもん。」


やはり男女交際を円滑に進展させるには、共通の活動は必須項目だと思う。

世の女性達が男性に求めるのは包容力と言う話もあるが、そんなの嘘っぱちである。


「でも陸上部に入部したところで、体力的についていけるの?」


「まあその辺は少しづつ頑張っていきたい。」


ちなみに同じ部活に入り辛い体験を一緒に乗り越える事で、連帯感だかなんだかが恋愛感情に変わるあの展開を期待している。心臓のドキドキを恋愛のドキドキと勘違いするあれだあれ。


「ちなみに吊橋効果は心拍数が上がることを脳が「恋」と勘違いしてしまうことが原因らしいよ。」


「俺の心を読まないでくれるか。」


「だって、君が考える事だもん。」


その時、彼女はなにか思いついたような顔をした。


「さあもう少し走るよ。」


彼女に強引に手を引かれ、河川敷を疾走する。

彼女の容赦ないスピードのジョギングは俺の現在の体力では辛く、心臓は激しく脈打つ、心拍数はずっと右肩上がりだ。


「ぜぇぜぇ……。」


「ねえ、心臓は大丈夫?ドキドキしてる?」


彼女の満面の笑顔で問いかける。

しかし正直な話、反応するのも辛い。


「はぁはぁ……ドキドキどころじゃ……すまねえよ。」


この返答に、何故か今日一番の笑顔を見せる彼女。


「ねえねえ、じゃあ今の私を見てどう思う。」


心拍数が上がりすぎて、彼女の突然の質問に頭がついていっていない。

はしゃぎながらくるりと回る彼女を見て、俺は息を切らせながら正直に答えた。


「ちょっと……汗くさいかな。」


彼女は顔を赤らめ、大きくため息をついた。


「最低だね、君は。」



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