国語問題
俺が通うこの高校は、全校生徒数1200人中なんと男性は200人しかいない。
事実上のハーレム学園なはずなのだが……。
「
「突然どうしたの?」
50分の昼休みを有意義に過ごすために、教室は少しざわついている。
俺の目の前には、自作の弁当を広げて卵焼きをパクつく少女の姿がある。
こいつは俺の数少ない中学時代からの女友達だ。
彼女は俺が教室でぼっちなのを見かね、一緒に弁当を食べる提案をしてくれた。
顔見知りが一人しかいない高校生活で、ぼっちの俺にはありがたい提案だった。
俺は、通学途中にコンビニで購入した惣菜パンの袋を開けながら語る。
「昨日図書室で、凄い美少女を見かけたんだよ。」
昨日の放課後、特に本には興味がない俺が偶然図書室で見かけた文学少女。
図書室の片隅で本のページをめくるその可愛らしい仕草と、文学少女特有の儚げな雰囲気に俺は一発で虜になった。
「なるほど、それでその彼女が読んでいた本が夏目漱石の著書だったと。」
「なんでわかるんだよ、お前エスパーかよ!!」
昨日、文学少女が去り際に手に持った本が一瞬見えた。本のタイトルは手で隠れ見えなかったが、著者が夏目漱石だった事は確認できた。
ちなみに文学少女が図書室を去るまで約一時間、別にストーカーをしていた訳ではない。俺は急に文学に目覚め、本を読みたくなっただけだと言い訳しておく。
彼女は早々に小さい弁当を平らげると、ニコニコしながら俺に問いかけた。
「それで、夏目漱石の本は買ったの?」
「なんでわかるんだよ、お前エスパーかよ!!」
俺は物を借りると言う行為が嫌いだ。あのいつか返却しなければいけないという切迫感というか、期限や締め切りがあるのが性に合わない。借りるくらいなら買う、それが俺のスタイル。そんな俺は昨日、近所の古本屋で夏目漱石の本を探した。
タイトルが辛うじて分かった本は二冊。
「ぼっちゃん」¥324
「我輩は猫である」¥108
もちろん俺は、我輩は猫であるを購入した。
コーヒーを自販機で買うよりもリーズナブルな、学生の懐に優しい価格設定だった。
「それでその本を読んで、その内容で彼女とお話して、あわよくば交際したいと。」
「なんでわかるんだよ、お前エスパーかよ!!」
やはり男女交際を円滑に進展させるには、共通の趣味は必須項目だと思う。
世の女性達が男性に求めるのは経済力と言う話もあるが、そんなの嘘っぱちである。
「それで、本はどのくらいまで読んだのかな?」
「我輩の住処が決まったところかな。」
彼女は心底呆れたような顔をした。聡明な彼女には、まだ俺が小説の冒頭しか読んでいない事が明白なようだ。たしかに昨夜、この本を数行読んだだけで猛烈な眠気が襲い掛かって来たのは事実だ。しかし、あの文学少女と仲良くなる為には漱石知識は必須。そこで俺は考えた訳だ……。
「まて、ちょっとこれを見て欲しい。」
俺はスマホの検索履歴を表示し、昨夜の勉強の成果を彼女に見せつけた。
夏目漱石 - Wikipedia
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夏目漱石 名言
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「総閲覧時間は三時間!!試験前夜の勉強時間を遥かに超越していたね。」
「漱石の本は読んでなくても、もはや俺は夏目漱石博士だ。漱石テストがあったら90点は硬いね。」
俺のどや顔に、彼女の呆れ顔は続いた。
「君のその間違った方向への行動力には心底感心するよ。」
多分、褒められていないのだと直感で確信する。
「ところで今夜は月がきれいらしいよ。」
いつも聞き役の彼女が、話題を振るのは珍しい事だ。
そういえば、昨日ニュースサイトのトップで今夜は皆既月食と報じられていた。
いつも馬鹿にされている俺だが、たまには知的な部分を披露しようじゃないか。
「そういえば、今夜は何年か振りの皆既月食だってな。」
俺の返答に、彼女は大きくため息をついた。
「やはり君は馬鹿なんだね。」
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