恋愛問題

水無月暦

算数問題

受験生の夏、俺の偏差値は並だった。

そんな中、悪友からある情報提供を受けた。男女比なんと約1:5の俺の学力では超難関の高校が県外にあると。俺は先生や両親が全力で止めるのを振り切り、猛勉強の末に地元から飛行機の距離のこの難関高校になんとか合格した。


やったな。


今年度の全校生徒数1200人中なんと男性は200人!!

その差はなんと5倍!圧倒的である。この男女比なら根暗な俺にも彼女ができ、バラ色の高校生活が送れるはずだ。


本当にそう思っていた……。


やはり最強はイケメン。

やつらは入学早々に活動を開始、そして5月になる頃にはすでにクラスの中心となり、主要美女達は抑えられていた。やつらは顔が良いだけで女にもてる、同じ事をやっても俺がやると「キモイ」、やつらがやると「可愛い」だ。その理不尽さを俺はよく知っている。しかし、やつらに付き纏うのは大抵ギャル系だ。もともと俺の彼女選択肢には入っていないのでくれてやろう。


そして次にスポーツマン。

やつらは部活を頑張るスポーツ少女やマネージャー達を体育会系のノリで次々と落としていった。同じスポーツをやっているという連帯意識に、恋愛感情が芽生えるのは至極当然だ。まあスポーツ少女では俺とは話が合わない、レギュラーとマネージャー等の王道カップリングでせいぜい青春を謳歌するがよい。


んでヤンキー。

なんで他校生と喧嘩したり、バイク乗ったり、タバコ吸ったりしてるともてるの?

だいたいが俺の彼女選択肢以外のヤンキー同士でくっついて問題ないのだが、なんで委員長タイプとくっついちゃうのがいるの?ねえなんで?

俺みたいな根暗タイプと唯一相性が良さそうな貴重な委員長タイプ、もってかないでくれよ。でもヤンキーの暴力が怖いので戦略的撤退。断腸の思いで委員長タイプもくれてやる。だからいじめないでね。


問題が同姓カップル。

ホモなら良い、好きにやれ。しかし先輩方、貴重な美女枠を潰す「百合カップル」あれはダメです。お姉さまってなんですか?せっかくの男女比おかしくしないでくださいよ。


そんなこんなでもう季節は夏だ、彼女いない歴=年齢の俺は焦っていた。

ここで1度冷静に問題を整理してみよう。

仮にうちの男子生徒が俺以外全員に彼女ができ、それが全て校内恋愛だったと定義しよう。全校生徒1200人から男子数200人とその彼女199人を引く。


イコールは801人。


小学生でも分かる簡単な算数の問題だ。

つまり仮説として考えても俺1人に対して現在801人の恋愛可能な女性がいる。それがこの学校内の現状と考えてもいいだろう。

しかし、現実には801人もの女性が余っているのに俺には誰からもアプローチがかからない。


おかしい。


そこで仮説②だ。

まずは先にも述べた同姓カップル。この数がだいたい200としよう。

次に他校、幼馴染、会社員等の学校外からの侵略者。これを300くらいとする。

そして家柄、家庭の事情、傷病、疾病等の理由で彼氏を作れないというレアパターンの女性。これも少し多く見積もって200とする。

最後に倫理的・道徳的問題になるが、世の中には二股というものが存在する。

これがまあ最悪な計算で100くらいとしよう。


さあ計算の時間だ。


【1000-(200+300+200+100+199)=  】


「やべえ……1人しか残らねえ……。」


これなら現状に納得できる。しかし由々しき問題だ。


「どうかしたの?」


不意に背後から声がかかると、そこには見知った少女が立っていた。

こいつは俺の数少ない中学時代の女友達だ。俺がこの高校を受験すると言うと


「えっ偶然、私も受験するんだよ。」


と言いだした。

俺と違い頭の良い彼女は、どこぞの大学の付属の高校の推薦を貰うと聞いていたが、

どうもガセネタだったらしい。ちなみに彼女はこの高校に楽勝で合格したそうだ。

まあ俺と彼女は腐れ縁的な関係で、仲の良い悪友的ポジションでもある。

俺がさっきまでの壮大な計算式を説明すると、彼女はにこやかに言った。


「それは、君の計算式が仮定から間違ってるね。」


彼女は紙とペンを取り出して言った。


「1000人の女子生徒に対して君は1人、つまり計算式は1000÷1でこれが有効恋愛可能数だね。」


「君の間違いは、ここに期待値をかけなかったところかな。」


彼女は紙になにかを書き出した。


「では期待値の質問です。正直に答えてください」


彼女はにこやかに俺を見る。


「お顔に自信は?」


「ない。」


「成績は?」


「ぼちぼち。」


「運動は?」


「苦手。」


「恋愛経験は?」


「ない。」


「じゃあなにか自信のある事は?」


「とくにない。」


最後に彼女はいたずらっぽい笑顔で聞いた。


「じゃあ君の期待値を数字で考えると、現実的にいくつになるかな?」


「ゼロじゃねえか。」


俺はふてくされたように答えた。

彼女は俺に紙を渡す。


「じゃあ今の話を式にしたから、その計算解いてみてね。」


============


【1000÷(1×0)=   】


============


俺は少し考えてこう答えた。


「んっ……最終的に0で割るから、答えは解なしか?」


彼女は笑った。


「そう、恋愛に答えなんかないのよ。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る