英語問題

俺が通うこの高校は、全校生徒数1200人中なんと男性は200人しかいない。

事実上のハーレム学園なはずなのだが……。


「アイデューノットハブガールフレンド」


「All of sudden what?」


「うおっ驚いた、いきなり外国語で話しかけるなよ。」


「君が今使っていた言語はなんだったかな?」


テスト期間中の昼休み、教室は次の英語に試験に向けて、教科書やノートを広げる生徒達でざわついている。

俺の目の前には、自作の弁当を広げてウインナーをパクつく少女の姿がある。

こいつは俺の数少ない中学時代からの女友達だ。

彼女は俺が毎日惣菜パンなのを見かね、弁当を作ってきてくれる提案をしてくれた。

不器用で料理も出来ず、コンビニ常連だった俺にはありがたい提案だった。


「最近そのイヤホンで何を聞いてるの?」


俺は、彼女の作ってくれた弁当を頬張りながら答える。


「これは聞き流し専用の英会話学習アプリだよ。」


これは、聞いているだけで英語がぺらぺらになれると言う神アプリだ。

先週、どうにか英会話を努力なしでマスターしようと考えた末にたどり着いた結果がこのアプリである。


「先週、交換留学生が来ただろ!」


ジャパニーズのそれとは違うグラマラスなスタイル、輝く光の束のようなブロンドヘアー。そしてそのチャーミングなスマイルにミーはメロメロになった。


「なるほど、それで交際までは行かなくても一度ハグくらいはしてみたいと。」


「なんでわかるんだよ。」


「逆に何で分からないと思うのかな?」


やはり男女交際を円滑に進展させるには、共通言語は必須項目だと思う。

世の女性達が男性に求めるのは清涼感と言う話もあるが、そんなの嘘っぱちである。

そして、男性が女性に求めるものはおっぱいと言う話があるが、それは真理である。


「君のその間違った方向への行動力には、毎回心底感心するよ。」


彼女は俺が即効で食べ終わった弁当を片付けながら言った。

多分、褒められていないのだとなんとなく理解する。


「でも君、前回の英語の試験は赤点だったんだから、試験勉強したほうがいいよ。」


彼女は呆れながら正論で俺を諭した。それに思わず脊髄反射で反論する。


「いいんだよ、日本で一生暮らすから俺に英語なんて必要ないんだよ。」


「今、君が覚えようとしている言語はなんなのかな?」


自分でもかなりの失言だったと思う。


「まあ待て、このアプリの凄いとこを聞いてくれ。」


俺は彼女が注いでくれたお茶を飲みながら説明する。


「このアプリの凄いところは一週間聞いているだけで英語がぺらぺらになるだけじゃなく、聞いているだけで眠くなり不眠症に劇的な効果があるところだ。」


「おかげで俺はここ一週間毎日快眠な生活を送っているぞ!」


どや顔の俺に慈愛に満ちた表情の彼女、正直罵倒されるよりかなり辛い。


「じゃあそのアプリもう一週間も試したんだ。」


「おう、多分もう英語ぺらぺらだぜ!」


自信満々の俺に彼女は言った。


「I have got a crush on you.」


かなり流暢な発音だったが、毎日アプリを使っていた俺には死角はなかった。

まさか彼女も俺が完全に聞き取れるとは思っていなかったのだろう。

こんな中学生でも分かるような簡単な文法、舐められたものだ。


【アイハブゴッドクラッシュオンユー】


つまり、「俺と一緒に神を倒しに行こうぜ」が正解だ。


「おい、神を倒しに行こうとかなんのゲームの話だよ。」


大笑いする俺に彼女はにこやかに言った。


「そのアプリ、ポイしようね。」



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