第4話 俺はやっぱりボッチでいい
ーーーキーンコーンカーンコーン
終礼のチャイムが鳴った。
それと同時に、同じクラスの一番後ろの窓際の席に座っていた彼女が立ち上がった。
俺は廊下側の後ろから二番目の席。
横目でその姿を追った。
クラスのほとんどが、その彼女を見て、羨ましそうにため息をついた。
俺は、その彼女のことをよく知っている。だって、隣の家に住む、赤ちゃんの頃からの幼馴染だから。
最近はめっきり話さなくなったが、数年前までは、お互いの部屋を行き来してた仲だ。ゲームの対戦相手をしたり、広臣がハマっていたアニメや漫画を見にきたりしていた。
あんなに澄ました顔をして帰っていったけど、みんなは彼女の本当の姿を知らない。
美少女?優等生?才色兼備?
アホらしい。
普段の姿をみんなに見せてあげたいくらいだ。
俺しか知らないその姿を。
俺がそう思っていたら、気付かずニヤケていたようで、隣の席の、クラスで彼女の次くらいに人気のある名前の知らない女子が話してきた。
「広臣くん、きもーい。凛ちゃん見てニヤケてたでしょ。でもわかるよ、その気持ち。私も凛ちゃん見ていると、見惚れてニヤけちゃうもん、うんうん、わかるわかる!内緒にしておいてあげるね!」
「そんなん違うし…」
「ん?何か言った?」
俺がボソっと小さな声で言ったので、その名前の知らない女には聞こえなかったらしい。
言い直すのも面倒だから、そのまま無視して、急いで帰る準備をした。
こんなよくわからない女の相手をする暇なんてない。女は面倒臭い。勝手に人の気持ちを決めて押し付ける。
女関係なしに、人付き合いが面倒でたまらない。
だから俺は好んでボッチでいることを選んでいる。
周りからは、友達がいなくて可愛いそうとか、暗いとか陰キャラとか、変態っぽいとか言われているけど、そんなの別にこれっぽっちも気にしない。
今後、この中の人間で、プラスになる関係性を気づける人は、ほとんどいないからだ。
だから、この貴重な毎日は、俺のプラスになるようなことをしていくと決めている。
今日もまた、家に帰って楽しみにしていることがあるのだ。
青春?リア充?恋愛?
俺には必要ない。
よし!帰る準備もできたし、帰ろう!
席を立つと、また隣の席の女が声をかけてきた。
「広臣くん、また明日ね!バイバイ。」
「お、おう。」
挨拶なんてほとんどされていなかったのに、急にどうした?俺のことが好きなのか?え、そうなのか?
今まで接点が全くなかったのに、いつ俺に惚れた?顔か?道端でお婆さんを助けてあげたのを見ていたのか?急に俺にモテ期が到来したのか?
俺は、動揺してしまい、返事の声が、少し上ずってしまった。
でも、嬉しくなくはない。青春、リア充、恋愛、必要ないとさっきまでは思っていたが、それも悪くはないな。ふふっ。
「どうしたの急に!きらり、上村くんに話しかけて。友達だったっけ?」
隣の席の女は、『きらり』という名前らしい。俺に好意を持っているから、覚えておこう。
しかし、そのきらりという女の友達は、失礼だ!友達じゃなかったら、話しかけてはいけないのか。
友達の定義とは、なんだ。友達になりましょうとお互いに話して成立しないと、友達とは言えないのか。ボッチの俺には、よく理解できない。
「ううん、きらりね、話したことない人でも、どんどん話していこうと思って、広臣くん、今まで話したことなかったし、いつも一人だから、友達いないのかなぁーと思って、話しかけたの。」
「さすが、きらりは優しいし、空気読めるよね!」
な、なんですとーー!!
グサー!俺の心に図太い剣が何本も突き刺さった。なんだとーーーー!俺のことが好きだから話しかけてきたんじゃなかったのか。
俺のことが好きなのかもと勘違いした自分に恥ずかしさが込み上げてきた。
お、女怖い…。青春、リア充、恋愛なんて、やっぱり俺には向いていないし、恋愛偏差値0の俺には、女の気持ちなんて全くわからない。だから必要ない。
それにしても、このきらりという女、自分のこと可愛いですアピールみたいに、自分の名前を自分で呼ぶなーー!
怒りながらも、恥ずかしさとショックも混じった複雑な気持ちになりながら、トボトボと教室を出た。
俺は自らボッチを選んでいるから、全く気にしなくていいんだ。
早く家に帰って、やりたいあれをやろう!
ダッシュで家に帰った。
ただいまは言わない。なぜなら両親は共働きで帰りが遅いから。
洗面所で手洗いうがいをしっかりし、キッチンにある冷蔵庫をあけ、ペットボトルの炭酸水を取り出した。
それを持って2階の自分の部屋へと向かった。
「はぁ、今日はなんか疲れたなー」
俺の部屋の閉まったドアを開けた…瞬間、
「うわぁーーーーーーーー!!!」
ドスーン!
俺の部屋のベッドに俯いた女の人が座っていた。
驚いて、後ろに倒れて尻餅をついた。
「そんなに驚く?」
その女はクスクスと笑いながら言った。
「そりゃ、誰もいないと思ってる部屋に誰かいたら、絶対に驚くだろ?」
「確かにね。それにしても、相変わらず窓の鍵は締めてないんだね。私はそれに驚いた。まぁ、私もなんだけどね」
可愛いとは言えない、ダサいモサモサの上下グレーのジャージを着たその女は、白い歯を見せ笑っている。
「凛、お前、相変わらずすげー格好だな。女なんだし、それどうにかしろよ。俺でも引くわー。」
そう、さっきも言ったが、学校で大人気の相沢凛は、俺の隣の家に住む幼馴染。
部屋も向かい同士なので、窓から窓へと行き来していた。最近めっきりお互い行き来していなかったのに、突然訪問してきたのだ。
相変わらずのモッサい格好で。
「そう?あ!それよりさー!!ーーー」
凛は、少し泣きそうな顔になり、俺の方に寄ってきて、両手で俺の両腕を掴んで揺さぶった。
「助けて欲しいの……。」
上目遣いの涙目で、俺に助けを求めてきた。
「え……。」
正直、心臓バクバクだった。
いくら昔からの幼馴染と言っても、もう高校生。
二人きりの密室。そして、密着。そして、なにこの良い匂いは……。
リア充青春真っ只中の同じ歳の高校生男子にとっては、夢のようなシチュエーションだが、俺は、お地蔵さんのように、固まってしまった
ーーーチーン。
「あれ、広臣?どうした?」
あなた、それ、素ですか?普通の健全なる男子高生は、こんな状況ならオオカミ化しますよ?ーーー
と言いたいが、言えない。
「いや、何でもない。ところでどうしたの?」
気を取り直して、凛に聞いた。
「あ、あのね、恋人にしたい人がいるんだけど、何をプレゼントして良いかわからなくて、この前間違って渡したら、機嫌が悪くなっちゃって。」
ーーーえーーー!!!な、なんですとーーー!!!
り、凛に好きな人がいるって?さらにプレゼントして機嫌悪くなった?貢いでいるのか!騙されていないか!
いや、それより、好きな人って誰だよ。
俺の近くにいた凛が、遠くにいくみたいで、嫌な気持ちになってきた。
まさか、奏太か!
「凛、好きな人がいるって、誰?」
思わず口に出てしまった。
「恥ずかしいから誰とは言えないけど、すごく魅力的な人なの。勉強もできて、スポーツも万能。友達も多くて、学校でも人気なの。」
頬を赤らめながら、照れながら説明してくれた。
これに当てはまる人、『奏太』しかいないじゃないか。
心がざわついた。
そんな時、さらに動揺する言葉を凛は言った。
「こんなこと、広臣にしか話せないじゃん。」
はぁ、やっぱりもう一人の幼馴染みの奏太のことか。なんか悔しいな。何だ、この感情。
チッ。
俺はやっぱりボッチでいい。ボッチが楽だ。何も考えなくていいから……。
落ち着こうと炭酸水のペットボトルの蓋を開けた。
ーーープシューーーッ!!!
尻餅ついた時に、床に落としたことを忘れていた。
頭からそれが降ってきた。
今日は何なんだよ、もう…。
泣きたい気分だ。
頭から被った炭酸水が、目の下を涙のように流れた。
目の前にいた凛が、ゲラゲラ笑っている。
しかも、凛も炭酸水をもろに被っていた。
「ちょっと落ち込んでいたけど、すごい笑えて気分が晴れたよ!広臣ありがとう!何これ、ベタベタ。ハハハッ!」
凛の笑い声に、俺も何だか心が落ち着き、一緒に笑った。
こんなに笑ったの、いつ振りだろう。
私・俺だって××に萌えたい! 新山夏花 @natsuka
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