死即演算
水無月暦
死即演算
今年の夏休み、俺達三人は近所では有名な心霊スポットに潜入した。
近所にある廃屋の一軒家、たわいもない高校生の悪ふざけ、その日はなんてことはないただの深夜徘徊で終わるはずだった。
しかし、その悪ふざけの最中に奴らはやってはいけない事をやってしまう……。
廃屋の隅にたたずむ鳥居と小さな祠。俗に言うお稲荷様というやつだろう。
何を思ったのか、仲間の一人がその祠に蹴りを入れた。
「ベキッ!!」
木材が割れる大きな不快音と共に、祠は吹き飛びバラバラに崩れ落ちた。
「ギャハハハ、ひで~!」
その拍子で祠から飛び出し転がった狐の人形、それをもう一人の仲間が踏み潰した。
「バキッ!!」
鈍い嫌な音を発て、陶器製の狐の人形は粉々になった。
「ギャハハ、俺達呪われちゃうよ~」
深夜だと言うのに馬鹿笑いをする二人、あっという間の出来事だった。俺は呪いなんか信じてはいなかったが、それでもこの行為に嫌な気分にはなっていた。
それから一ヶ月程が経って、他の高校に通っていたこの二人が死んだと聞かされた。
一人は自殺、もう一人は交通事故で即死だったらしい。
俺はすぐに心霊スポットでの一件を思い出し、自分の身を案じた……。
つ ぎ は お ま え だ
どこからともなくそう聞こえた気がした。
その日から俺の不運の日々が始まった。イスに座ればイスの脚が折れ、自転車に乗れば主に下り坂でブレーキが壊れる。道路の水たまりを避けたら、絶妙のタイミングで避けた方向に車が突っ込んでくる。放課後の校庭になど行こうものなら、野球にサッカーにテニスボール、果ては陸上部から槍や砲丸までもが俺を目がけて飛んでくるなどなど……。
「疫 病 神」
クラスメイト達は俺をそう呼んだ。
あまりにも不自然で不幸な出来事に遭う俺を、クラスメイト達は巻き添えを恐れ徐々に避け始める。親からは心配になってお払いの予約をしてきたと言われた。生傷の絶えない息子の身を案じてだろう。
「週末にでもお払いに行くよ」
俺は来ないかも知れない未来の約束をし、今日も学校に旅立った。
今日も朝から疫病神は絶好調だ。
散歩中の犬がことごとく襲い掛かってくる。居眠り運転の車が突っ込んでくる。
道路に落ちているバナナの皮をよけるのに死の覚悟をするなんて、少し前だと考えもしなかっただろう。
何とか苦難を乗り越え下駄箱までたどり着くと、俺の目の前に見知らぬ美少女が立ちふさがった。今朝の最後の難関か……?
「おはよう」
その美少女はニコリとして俺の腕をつかみ、そして唐突にこう続けた。
「ねえ君、私と付き合ってみない?」
いきなりの告白に驚き喜び、そして美少女の顔をまじまじと見る。
次の瞬間、歓喜の感情は絶望に変わり、全身から血の気が引いたのが分かった。
「死 神」
クラスメイト達は彼女をそう呼んだ。
彼女は容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀と非の打ち所のない優等生だ。
しかし、たったひとつ彼女には致命的な欠点があった。
それは、今まで彼女と付き合った男性がみんな死んだという事実。
俺の最近聞いた話では、彼女と付き合った男の一人は校舎の屋上から飛び降り自殺。
そしてもう一人は交通事故にあって即死したと聞いた。
俺は今、そんな娘に告白されてしまったのだ。
「うお……死神……まじか」
今の俺は疫病神だ。今後の人生で、こんな美少女から言い寄られるなんて
心情的にはこんな美少女と付き合いたい、そして色々な事をしたい。しかし付き合えば待っているのは死。これが呪いの結末なのか、俺はその場に座り込み号泣した。
「くそっ、あんまりだ!童貞男子にはあんまりすぎる選択だ!」
それを見た彼女は、俺の心情を察して満面の笑みでこう言った。
「大丈夫なんだよ、安心して疫病神くん」
「んへ?」
俺は思わず情けない声を上げてしまった。
そんな俺に彼女は子供に言い聞かせるように説明する。
「四則演算は習ったよね?」
彼女は指を空中でクルクル回して続けた。
「じゃあ死神をマイナスとして疫病神もマイナスと過程する。それをかけるとどうなると思う?」
四則演算?俺はいきなりの質問に面食らいながらも考えた……。
「……んっ?……おおっ!」
「そうなの、だから今度こそ大丈夫なの」
そして彼女は俺の手を握り
「それじゃこれからよろしくね、ダーリン!」
そう言い残し、教室のほうへ小走りで駆けていった。
彼女の中では、いつの間にか俺との恋愛関係が成立したらしい。
「これで、俺も念願の彼女持ちか。」
俺はウキウキしながらスマホをカバンから取り出す。
「あっ母さん、週末のお払いってキャンセルできるかな?」
はっぴーえんど?(Y/N)
死即演算 水無月暦 @yuo626
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