ふぁみれす 二杯目

 三行くらいでわかる前回の神薙


 君影は、うべなながらを凪に譲渡したいと考えている。

 凪が榮一えいいちを殺していた。

 まだ榮一が存在しているかのような口ぶりだな……?


 ○


「基礎知識も飛んでるのか。じゃあそもそも、人は死んだらどうなるか……知っているか」と君影。


「死んだ人間から魂っぽいのが抜け落ちて、ふわふわーっと空に昇ってくのは見たことがある。その行き先は……」

 分からん。


「地域差あるが、その魂っぽいやつは〝遺念火いねんび〟と呼ばれているものだ。遺念火は呪術でちょっかい出さない限り消えない。行き先だが、善行に励んでいたら極楽へ行き、悪行を犯していたら地獄送りだ。どっちつかずは中国に行く」


「だから中国の人口は多いのか」

 合点がてんがいく。


「冗談だ。肉体から抜け落ちた遺念火は、天界とかいう死後世界まで飛ん

 でいくんだ。それがこの世界で幽霊をあまり見かけない理由だよ。そよぎは土地神が重しになってるんだろな」


「……死ぬと死後世界に行くなら、親父の心配する必要ないんじゃないか?」


「それがアイツ、死人のくせしてノコノコ戻ってきやがったことがあるんだよ……。だからこそ凪、ちゃっちゃと諾達をだな……」


「わかった」


「ただ、私に用件があったら、それより先に済ませてほしい。私、死ぬから」


「えっ死んじゃうの!?」と梵。


「そりゃ諾達抜いたら死んでしまうよ……」


「そうなんだ……。あっ! 用件なんだけど……蠱物さん、なんとかならないかなぁ? お兄ちゃん、昼は学校に行って夜は蠱物さんの相手してるから、ボロボロなの……」


「蠱物は放置でもいいんじゃないか。案外みんな病んでいるのだから、蠱物が蔓延ってもバレないだろ」


 最近の報道番組のネタは〝地域ぐるみで集団うつか〟である。蠱物案件だとは思うのだが、世間ではまれにある事件として扱われている。


「私も最近はそう思うんだけど……お兄ちゃんは違うみたい」


 俺は、華凛の鯉の件以来、漏れがないよう、真剣に蠱物を片している。


「昔みたいに、呪術使えるお兄ちゃんなら、こんなボロボロになってないと思うの」


「俺、そんなボロボロじゃないぞ……?」


「お兄ちゃん、クマすごいよ……?」


「そうか……?」

 俺は目の下をこするようにしてなぞってみる。


「凪次第だが……一度、山形に戻ってみたらどうだ」


「えっと……学校があるから、夏休みになってからでいいですか」


「任せる」


 こうして夏休みの予定は埋まった。


 君影は言う。

「しかし梵、蠱物にさんづけするのは止めとけ。同調してると魅入られるぞ」


「だって蠱物さんって私みたいだから。自分というものが薄くて、何かにすがろうとして……」


「梵は十五くらいだっけか? まぁ、そういう歳だよな」

 と君影。


「なに?」


「いや別に」

 君影は、懐からお札おさつを出した。

「じゃあ私はひとまず先に帰るから……」

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