ファミレスにて

 前回のまとめ


 加増の蠱物まじものホイホイ化が懸念される。

 蛇穴凪が妹に手を出すのはアウトだから自制しようと決意していた。


 〇


 時刻は一三時前。今日までは学校が午前終わりなのだ。

 俺と華凛かりんは、学校の隣にあるファミレスに来ていた。


「凪君、今日も疲れているでしょ」


「そうでもない」


「でも『疲れてます』って目の下のクマが語ってる」


「……、間違えて二徹しかけた」


「普通は間違えないよ~。凪君って面白いね」




「おまたせしました~」


 早い。早すぎる。流石はファミレス。

 一人で食べに来る時は一皿以上頼むのだが、今日はやめておいた。女性の前で二皿食べるのはどうなのか、と考えてしまったからだ。人と食事をする機会なんてないので分からない。

 その代わりドリアに卵をつけた。


「ミラノ風ドリアといっても、イタリアミラノにはミラノ風ドリアはないそうよ」

 華燐は、フォークに麺をくるくる絡ませながら言った。


「よく知ってるな」


「そんな事ないよ。たまたま知っていただけ」


 本題に入る。


「ねぇ、鯉ってどんな姿をしているの?」


「個体差はあるが、白い体に、赤と黒を垂らした柄だ。それとヒレとヒゲがやたら長いな」


「へぇー、そんな姿をしていたんだ。やっと知れたわ」


「視えてないんだろ? なんで鯉がいるってことは知っていたんだ?」


 入学式の日に華燐は『心当たりがある』と言っていた。


「昔、お爺ちゃんが鯉を沢山飼っていたのよ。お爺ちゃんが亡くなった後に、その土地を売ることになって……私が段々と怪奇の気配を感じられるようになったのはその頃。――今ここに鯉達いるってことは……そういうことなんだと思う」


「悪い、重い昔話をさせて」


「いいよ気にしないで。むしろ聞いてくれてありがとうだよ。誰にも話したことなかったもの」


 〇


 華燐かりんは二杯目の紅茶を注いだ。芳醇な香りが漂う。


「数日前からこの街の雰囲気は変わったわ。雰囲気が変わってから、黒い積乱雲みたいなモノが何度も接近するの。だけど夜のうちにポツリポツリと数が減るの。きっと誰かが消してくれている」


「一体なんだろうな」


「半分私ですね」とそよぎ


「凪君、知ってるでしょう?」


「どうだろう……」


「だって、台風の目がその数日前から、いつも凪君の近くにあるもの」


 完全に感づかれている。


「私ですね……」とそよぎ


 なんて説明すればいいものか。台風の目は普通の怪奇ではなく女――ましてや妹である。それを言えば経緯を言わざるを得ない。そうすれば蠱物まじものやらの話も出てきて……華凛を心配させる。


「あっ! やっぱり言わないで、ごめんなさい。私の”知りたがり”が出ちゃった」


「華凛って知りたがりなんだな」


「私はね、答えのある卓上の勉強よりも、誰も知らないことを知りたいの。探偵ごっこだけど、知らないことを知ろうとする過程がたまらなく好き」

 熱のこもった声。

「私、凪君に出会えて良かった。凪君の瞳に映るせかいを少し知れたから。――また私とお話してくれないですか?」


「もちろん……!」

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