追跡する魚
三行でわかる前回の神薙
ミラノ風ドリア。
華凛の鯉は、華凛のおじいちゃんが飼っていた鯉と思われる。
知りたがりの華凛は凪に興味津々。
○
四月○日午前三時十二分 加増市内にて
華凛side
夜の町に、嫌な雰囲気のナニカが這い寄ってくるようになったこと。
でもそれらは夜の内に一掃されること。
入学式の日を境に、彼の雰囲気がすっかり変わってしまったこと。
私は知りたかった。だけど彼は秘密主義だった。
だから、彼をそっと尾行をしてみることにした。いけないことだとは分かっていたけれど、知的好奇心が勝ってしまった。
彼は、隣にいるナニカと親しげに話しながら歩いていた。
○
凪side
土地神は怪奇を寄せ付ける――
土地神白鷹が憑依している
とは言え、普通(?)の怪奇なんてほとんどいない。来るのはもっぱら他のヤツらとは一線を画するドス黒い怪奇――
「邨?ケ斐↓迢吶……!!」
おぞましい声を上げる蠱物は、一心不乱にこちらへ這い寄ってくる。
俺は
再生しようとしていないかを確認して、完了。
『強くなりたい』と大口を叩いて、梵の代わりに蠱物退治を引き受けたのはいいが――蠱物が弱すぎる。
いつぞやの弓のおっさんと張り合えるだけの力を手にするだけでも、十万体は倒さないといけないんじゃないか?
「――なあ、そもそも、蠱物とやらは本当に人間を害しているのか? 俺が睡眠時間を犠牲にして蠱物の数を減らす意味はあるのか?」
学校と蠱物対処の両立がかなりキツい。
「程度は分からないけど、多分害してる。私も“倒しても倒しても出てくるんだし”と思って放置した時があったけど、気づいた時には蠱物さんが大量発生してたの。因果関係は分からないけど、同時期にその町の住民が地味に陰湿になった感じがあった」
「地味に陰湿、か……。蠱物に憑かれたら目が赤くなるとか、味覚が機能しなくなるとか……蠱物特有の反応があればいいんだけどな……」
「あっ、たまに人間の目や鼻から蠱物さんが溢れてることあるよ。けど溢れるくらいなんだもの、見かけたときには――大体もう死んでる」
○
「お兄ちゃんあれ……」
梵が指差した先。
橋の欄干に男が座っていた。背筋が縮こまっていて、思い詰めた様子だった。
「自殺する気なのかな。どうしようね」
「下手に関わって向こうが飛び降りたら俺達警察沙汰だからな……。彼には死にたいくらい辛いことがあるだろ。なら俺達がどうこう言って自殺を思い留まらせるのは――――いや、蠱物に取り憑かれているせいかもしれないよな……」
そうなると俺達に原因があるのでは……?
「あのね、お兄ちゃん……。人っていうのはね、誰しも少なからず心に蠱物さんを飼っている生き物なんだよ」
「かっこいいことを言うな」
「まぁ、あの人は蠱物さんの影響を受けてると思うよ……。首吊や練炭より、飛び降りをチョイスするのは蠱物に取り憑かれた人の特徴かな。どうも飛び降りたくなっちゃうみたい」
「へぇ。飛び降りを促すって、蠱物はハリガネムシみたいだな……」
ハリガネムシとは名前の通り針金のような姿の寄生虫で、カマキリなんかに寄生する。産卵場である水辺に、宿主を誘導して飛び込ませる凄いやつなのだ!
――俺はこんな知識をどこで仕入れたんだろうか? 幼少期だろうか?
「言われてみるとそうかも」
アホの子である梵に伝わった。やはり俺が幼少期のうちに得た知識なのだろう。
「ん……?」
男の元に近づくにつれ、男に黒いモノがまとわりついているのが見えた。
梵もそれを視認できたようで、
「蠱物さん溢れてるし……。溢れるくらいあの人は抱え込んじゃったんだね……。積極的介入案件……?」
「行くか」
息を潜めて男の背後に回って、首根っこを掴んで、欄干から道路側に落とす。
男は抵抗をしなかった。
半開きになった口や、焦点の合わない生気のない目から、
「このまま放置って訳にもいかないよな……。既に人間に取り憑いている蠱物はどう対処すればいいんだ?」
「宿主の人間さんを傷つけて蠱物を追い出す、とかかな?」
「荒療治だな。でもそれで蠱物が抜けるならいいか……」
「私、やったことあるけれど、あんまり上手くできなくて。終わったときには人間さんの方が出血多量で、その……」
「だめじゃねーか」
「でも私ができる対処法はそれくらい」
「困ったな……。俺達にできるのは救急車呼ぶくらいか……――て、待て待て」
男はのそりと身を起こして、欄干に手を掛けた。慌てて取り押さえる。そうするとまた男の力が抜けて倒れた。
「憑き物は呪術じゃないと対抗出来ないと思うけど、現代のお医者さんの力なら……治るの?」
「医学が
「そうなの?」
「やりようはあるだろう。それこそベットに縛り付けて行動を抑制するとかな」
「そしたらずっとそのままかな?」
「かもな」
「そうなるくらいなら……。どっちにしろ、放置してたら死にそうだし、ちょっとやってみる」
梵は手始めに、男の左手の甲を刺した。
男は蠱物のような声を上げた。
俺は暴れる男の体を抑えていた。
梵が何箇所かを刺すと、身の危険を感じた蠱物が穴という穴からコポッコポッと出てきた。大雨が降った日のマンホールのようだった。
出てくるのは細切れのようなものばかりだった。蠱物はまだ宿主の中に留まろうとしているのだ。
「蠱物さんに乗っ取られて自殺したら……苦しいのかな? それとも死にたいって気持ちに身を委ねて死んだのだから、苦しまずに……、幸せに死ねるのかな……?」
梵はそんなことを言いながら男を刺していた。
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