ましゅまろ

 前回のまとめ


 蠱物まじものは宿主の衝動、願望、因子を悪い方向に助長させる。

 妹は歩くパワースポット。怪奇を寄せ付ける。

「蠱物さんを寄せつけてるのは私のせい。私が全部片す」

「いや俺が。弱いのはもう嫌なんだ」


 ○

 家に帰る。時計の針は午前四時を刺していた。


「なあ、蠱物は白鷹目指して絶え間なくやってくるんだろ? どのくらいの頻度で祓えばいいんだ?」

 俺は風呂に浸かっている梵に聞いてみた。


「毎晩……」


「毎日じゃないとダメなのか……?」


「放置したら、翌日の晩に倍になってる」


「……これ、学校と両立できないだろ」


「ごめん。私が御魂遷しをしたばっかりに」


「いやその事はもう謝らないでくれ」

 蠱物の処理のスピードを上げるとか、まだ改善の余地はあるはずだ。

「参考までに今までどういう生活をしていたか教えてくれ」


「夜起きて、近寄ってきた怪奇の対応をして、夜が明けたら公園とかで寝る。この繰り返し。怪奇を寄せつけないように毎日ちょっとずつ移動しながら……」


「ん? 待て。同じ場所に留まってるとどうなる?」

 俺は学生だ。少なくとも高校卒業までは加増にいる。


「一箇所に長くとどまっていると、その土地と土地神白鷹が馴染んで、パワーアップして、怪奇をさらに寄せ付けるようになっちゃう。かも……」


「うっそだろ……」


 〇〇〇


 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……ピピッ、ピピッ……――ピピピピピピピピピ……――!


 アラーム音が、頭の中でガンガン響く。確実に寝不足だった。

 手の感覚を頼りに目覚まし時計を止める。

 手が長い髪に触れた。梵だ。深い眠りについているようで、全く起きる気配がなかった。

 意外なことに、この幽霊的な妹は、暗いところと狭いところが大の苦手なのだという。「お兄ちゃんがいれば平気」というので、仕方なく同じ布団をシェアしたのだ。

 ……時間的に、そろそろ起こさなければならない。

 妹とはいえ、女と同じ布団で寝るのは、精神衛生上あまりよろしくない。こちとら等身大の男子高校生である。相手が実妹だろうと、不純な欲求はお構いなしに湧き上がってくる。それを、なんとか頬を触りたいという欲求に抑え込んだのだ! 胸揉みたいという考えは早い段階で消えていた。そこに揉めるだけの肉がないからだ。

 これは起こすための行為なんだ。

 頬つんつんなら、きっとセーフ――


 ふにっ。


 すごくやわらかかった。それでいてささやかな反発感もある。

 俺の頬と違う。いや同じなのだろうけど、別物のように感じられた。

 マシュマロ……。

 おっぱいの触り心地を知らないが「貴方が今触っているのはおっぱいだ」と言われても疑いようはない。実質おっぱいじゃんこんなん……。

 俺の指が止まらない。

 妹に手を出すのはアウトだ。そこは理解している。

 俺は家具の耐久検査機械のように、ただ指を前後に動かし続けた。

 ふにふに連打が二十を超えた頃――


「ん……お兄ちゃん、おはよ……」


「ああ、おはよ」


 梵は寝ぼけ眼をこすり、のっそりと身を起こした。


「んー……?」


 梵は自分の頬をさする。


「こんなによく寝れたのは初めて……」


 梵はゆっくりと動作で袴を着ていく。梵の動作がふと止まり、こちらを向き、

「あれ、学校行かないの?」


「やっべ忘れてた!」


 時計の針は、もうすぐ八時十分を指そうとしていた。

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