妹の独白

 三行くらいでわかる前回の神薙

 

 ”先祖返り”とは、血の繋がっている祖先達の記憶を追体験するというもの。蛇穴さらぎは先祖返りしやすい家系。

 そよぎは蔵育ち。


 ○


 その昔。ずっと私はくらいところにいた。

 私が私であることに気付いた時には既に、セカイは暗闇で満ちていた。

 私の、観測と記憶の機能がよくよく稼働し始めても、そもそも私はなんなのかなんて知れる環境ではなかった。

 定期的に蔵の扉が開き、明るい方から与一よいちという名の人間がやってきて、白鷹という怪奇についてや、そよぎというモノの存在意義を説かれる。どうやら私は一つの呪術の発動させるためだけの存在らしかった。「リンゴは赤いもの」と言われ、「はいそうですね」と何の疑問も持たずに、リンゴと赤を結びつける。そういう作業だった。発動したら私はどうなるかなんて、考えていなかった。

 間延びした時間の中で、私はただ漂っていた。

 今だから分かるが、いわゆる〝 監禁〟ということになるのだけれど、当時はそれが当然のことで、なんとも思わなかった。蔵を出るその時まで、寂しくて悲しいことだったなんて知らなかった。

 逆に言えば、ずっと蔵の中で人として死んだままだったのなら、蔵で過ごした期間は正当化されて、私に影を落とすことなんてなかっただろう。

 ……今も、暗くて狭い場所は、大の苦手だ。

 もちろん、蔵の外へ連れ出してくれたお兄ちゃんには感謝している。

 一生分の命じゃお礼できないくらい――死んでも死にきれないくらいに。

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