「先祖返り」についてお話しします
名前変更
蛇穴榮一→
○
三行くらいでわかる前回の神薙
夏休みに入り、
凪のハリガネムシと呪術に関するマル秘ノートが出てきた。
○
「先祖返りを知っているか?」
帰省一日目の夜。
君影は、緑茶の入った湯呑をぐるぐる回しながら、聞いた。
「先祖返り? 親に現れていない先祖の特徴が現れる……ってやつか?」
理科の授業でちろっと触れた覚えがある。
「呪術における先祖返りってのは、血の繋がっている祖先達の記憶を追体験するものでね……。先祖返りの仕方は、まぁ、様々あるが、『ああ、こんなやつがいたんだなぁ』とそいつの視線になって、ふと、視えたりするんだ。呪術の素養を受け継いでいるやつに起こりうる、発作みたいなものだ」
「既視感のようなものを感じるときがあるが、それは……先祖返りなのか?」
「どうだろうな。その程度なら、全然気にすることじゃない。酷い場合だと、かつて存在した人間そっくりに振る舞うようになったり、心がばらばらになって自分が誰なのか分からなくなったりするんだ。そうなってしまったら、元に戻れなくなることもある……。あった」
「えっ、
「だが先祖返りは悪いことばかりではない。例えば、先人を覗き見ることで、術のカンをつかめたりするとは言われている。が、何をどの程度見られるかは選べないから、先祖返りなんてしない方がいい……」
蛇のように鋭い目が、こちらを見る。
「気をつけろ、ウチは先祖返りしやすい家系だから。操られているような感覚や、寝る前の妄想や幻聴が止まらない時なんかは、特に気をつけろ。いまに先人がしゃしゃり出てくるぞ」
「どう気をつければ……」
「要は心の免疫力が落ちてるとまずいんだ。過度なストレスや睡眠不足を避けるしかない。しやすい場所っていうのもある。蔵は……気をつけたほうがいい。馴染み深い場所なんだ」
「でも私は、……」
梵は何かを言いたげに口を開いた。
「
○
「なあ」
俺は、屋敷の裏手にある、三角形のおやま……の頂上に続く石段に座っていた。
小一時間ほど、ボケーッとしていた。
静かな夜更けだった。
ここ
「に? ――蔵の話?」
「聞いてもいいのか」
「いいよ。……私、小さい頃は、土地神降ろしをするために、ずっと”世界”から遠い蔵に閉じ込められていたんだ。穢れは神性の大敵だから。……それだけ」
なんだよそれ。
「それだけって」
「それだけだって。あっでも、暗くて狭いところな苦手なのは、そのせいかな……」
俺は反応に困っていた。多分、顔に出ていたのだろう。
妹は、若干震えつつも明るい声で言った。
「でもっ! 昔のお兄ちゃんのおかげで蔵から出れたんだよっ? 一時は普通の女の子になれたんだ。……結局、〝こう〟なっちゃったんだけどね」
月の光に照らされた梵の銀髪が、風が吹くたび揺れていた。
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