第3話 友達と先生

「ふぅーよし!頑張ろう」


 と俺がドアの前で意気込んでいたところ後ろから背中を思いっきり叩かれた。


「いった!」


 咄嗟にベタなこんな言葉しか出てこなかった。振り向くと。


「仮病治ったのか優太〜」


 とニタニタ笑いながら冗談まじりに聞いてくる長身の男が1人。


「病み上がりの人間をもっといたわれ!」


蒼太そうた、それに先生インフルって言ってたでしょ」


 といつの間にか蒼太の隣にいた女の子が言う。


「いやいや、夏美なつみ、優太は絶対に仮病だね。先生達にこれを渡して説得したんだよ」


 と言って親指と人差し指で丸の形を作る。


「そんな訳ないでしょ!」


 とハリのある声で夏美のツッコミがすかさず入る。


「夏美の言う通りだ。俺がそんなことするわけないだろ」


 多少当たっていることは俺の心の中にしまっておいた。


「ほら〜言ったじゃない」


 と楽しそうに笑う夏美を横に


「いーや、そんなはずはない。絶対に証拠を掴んでやるって」


 蒼太が意気込んでいた。


「相変わらず仲のよろしいことで、良かったです。おじさん、俺の居ない5日間で別れているんじゃないかと心配だったよ」


「そんなわけないだろ〜夏美が俺を嫌いにならない限り別れるなんてありえないぜ!」


「恥ずかしいからやめて〜」


 と照れくさそうに夏美が顔を赤らめている。


 そんなことを言いながら教室に入った。この2人が同じクラスで本当に良かった。この2人は小学校からの幼なじみだから、クラスで浮く心配などは正直なかった。


「そういえば、委員とかって決まったの?」


「あーうん、決まったよ...」


 とそこまで言って夏美が言葉を詰まらせる。


「蒼太は俺が勝手に図書委員にしといてやったぞ。お前本好きだろ」


 とまた猫のように目を細めてニタニタと笑う


 なるほど、それで夏美が言葉を詰まらせたのか。


「な、本は好きだけど。図書委員って昼休み潰れる委員会代表じゃねえかよ」


「まあまあ、いいじゃねえか。もう1人は妖精と言われている、神阪こうさかさんだぞ」


 神阪 めぐみうちの学年の男子で、いや女子ですらも知らない人は居ない。それだけ可愛いと有名だ。まあ、俺は話したことないしハッキリ言って雲の上の存在であり、関係ない。


「う〜ん、だったらいいか!羨ましいだろ〜」と蒼太にいうと


「クソ〜なんで俺は学級委員を選んでしまったんだ!」


「へぇー、私が相方なのがそんなに不服かしら」と夏美が冷たい目線を送っている


「もういい、蒼太なんか知らない」と言い残し、夏美が歩いていく。


「おい、待てって、うそうそ、夏美が1番だって〜」


 とかなんとか言いながら夏美を追いかけて蒼太も俺の前から歩いていった。


 蒼太が前からいなくなったから気づいたが、俺の前の席はさっき話しにでてきた神阪さんだった。


「あ、神阪さん、よろしくね」


「あ、は、はい、よろしくお願いします。白井くん」と少し恥ずかしそうに言う。


「俺図書委員やるの初めてだから、色々教えて貰えると助かる」


 と言った時にさっきの蒼太との会話がフラッシュバックする。


 あれ俺さっき羨ましいかとか、なんとかいった気がするな...あーそれでかなんでさっきから恥ずかしそうにしているのか。


 それに気づいた瞬間俺も恥ずかしさが込み上げてきて悶絶しそうになったが、流石に神阪さんの前なので理性をフルに使っておさめた。


「は、はい。こちらこそ、しっかり教えられるか分からないけれどお願いします」


「うん、よろしく。あの、さっき言ってたことはあの、気にしないでね」


「え、あ、うん。ちょっとびっくりしたけど、嬉しいよ」


 と照れくさそうだけど、嬉しそうに言ってくれた。


 なにこの子!天使ですか?なるほどみんなが妖精だと言う理由が俺にも分かった。そんな風に俺が幸せに浸っていると。


「はい、席付けー」


 と先生の気だるそうな声が教室に響く。たしか今年で32歳と言っていたが、明らかにそれよりも貫禄があるせいか老けて見える。


「先生そろそろ禁煙した方がいいんじゃないですか」


 と蒼太が胸ポケットに入っている煙草を指さしながら調子に乗って言うと


「うるせー。これが俺の人生の唯一の楽しみ何だ。あと俺はそこまで歲いってないぞ」


 と冷静に蒼太のギャグを返していた。


「竜崎先生貫禄ありすぎて、間違えた〜」


「全く、もう次行くぞー日直号令」


 日直による、号令のあとHRで委員会の集まりがあることを伝えられた。そしてその後


「あと白井は放課後職員室こいよ。はいじゃあHR終わり。号令」


「優太〜進級してすぐに何やらかしたんだよ」と蒼太が、またダル絡みしてくる。


「なんもやってねえよ」


「そうか、今までありがとう。お前のことは忘れないよ」


「いや、勝手に殺すな!」


 まあ、その後普通に授業は進んだ。教室に入ってきた先生達は俺の事を少し見てから。目を逸らした。たしかに余命が決まっている生徒なんて扱いづらいよな。


 まあ、俺は時々目の前の天使に目を奪われるくらいで真面目に授業を受けた。いつもとの違いはそれくらいだった。


 ガラガラと立て付けの悪い職員室のドアを力を入れて開けて中に入る。


「先生、あのドア変えた方がいいっすよ。あと入部届けくださーい」


 とふざけた感じにいった。呼ばれた理由なんて分かりきっているからこそ俺は明るいトーンで先生に話しかけた。


「よお、来たか。その様子だともう全部決めて振り切った感じだな」


「まあ、そうですね。ただでさえ短い時間なんですから悩んでる時間が勿体ないんでね」


「お前がそうしたいならそれでいい。ただほかの先生がお前をめんどくさく思っても俺は味方でいるからなんかあったら来な」


 そう言って住所の書いた紙を俺に差し出した。


「先生カッコよすぎるよ。だから貫禄凄すぎって言われるんじゃない」


「なっ、お前人の厚意を」と言おうとするのを遮って俺は


「先生ありがとうございます」


 と頭をさげた。


「分かってんならいいんだよ」


 と嬉しそうに渋い顔を笑わせてみせた。


「あと入部届けだったな。ほらよ」


 と机の教科書の山から器用にそれだけを出して渡してきた。


「ありがとうございまーす」


 とさっきとは反対に軽いトーンで返した。


「そう言えばお前何部に入るんだ」


 と先生に聞かれて。


「美術部です!」

 と勢いよく答えた。


「あーそっかお前美術だけは5だもんな。美術部だと神阪と一緒だな」


「だけは余計ですよ。え、そうなんですか」


「あー、たしか受賞経験もあったはずだぞ」


「へー、それは楽しみですね」


「お前が楽しみなのは可愛い子と同じだからだろ」


 とプリントで叩かれた。


「ちょっと決めつけは良くないですよ」


「はいはい、去年から担任なんだからそれくらい分かるぞ。さっさと仮入部行ってこい」


「うぃーす。絶対賞とって先生に謝らせてやりますからね」


「期待せず待ってるぞ」


 という先生の軽口を背に職員室を後にして美術部に向かうことにした。

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笑っていて 空色 @nagisanagisa

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