第2話 父親と息子

 そんな時だ。玄関の方からガチャりと言う音がした。今の時間は9時半。こんな時間にこの家のドアを開ける人間なんてあいつしか居ない。

 白井 和義かずよしこの家の家長であり。俺達の父親だ。いや、麻衣の父親と言った方が正しいのかもしれない。


「ただいま。母さん、麻衣。先にご飯食べるから、用意してもらっていいかい?」


 あいつは俺の名前を呼ばない。俺をこの家の人間と認めていないからだ。


「そう。今日は飲み会はなかったのね」


「今日は仕事が長引いてね、何とか終わらせて帰ってきたよ」


「そんなことよりも、どうして優太に声をかけないの!一緒にいれるのはあと少しだけなのよ」


「いいよ、母さん。こんなやつ関わりたくもない。 」


「そんなに嫌ならば出ていけ。学費も家も食事も世話になっているんだ。高校生のお前がこの家を出たところで1人で生きて行けないだろ。ただでさえ薬代で余計に金がかかるんだ」


「そんなこと言わなくてもいいじゃないですか。優太だってなりたくてなったんじゃないんですよ」


「だが事実だ」


 俺は何も言わずにこの場から逃げるように上に上がり自分の部屋で寝転がった。母親があんな風に言うのは久しぶりだ。最近はもう父親のあの態度に諦めていたから。少し驚いたな。


 俺は母さんの連れ子で、あいつとの血の繋がりが無い。うちの家は歴史としてはかなり長い家だ。だからこそ俺のような人間が邪魔で仕方ないのだ。


「クソっ!」


 あいつにぶつけられない怒りをいつも枕にぶつけてるせいか、枕が破けてきて、中の綿が出てきた。


 あいつの言い分は父親としてはおかしい。だが言っていることは真実なのだ。だからこそタチが悪い。


 残りの時間をあいつに割くなんて勿体ない。そう思い。明日の学校をどう過ごすかをシュミレーションすることにした。


「まず、俺の余命があと2年だと言うことは誰にも言わない」


 そうこれだけは俺が決めた絶対のルールだ。だからこそもう一度声に出して言っておいた。もちろん先生達には伝えてあるが、他の生徒には教えないように頼んである。


 残りの学校生活を心配されたまま過ごしたくなかったからだ。最後までバカやりたいがために隠すことに決めたのだ。


 まず俺は5日も学校を休んでいる。それに関しては先生にインフルエンザってことにしてもらってあるから。なにか聞かれたらインフルとこたえよう。


「クラスが変わったばっかでこの休みは大きいな」


 とりあえず俺は青春を謳歌するために帰宅部を脱却しようと思う。


 そう!やはり青春と言えば部活!そう思った俺は何部に入るかこの2日間考えたが、運動部は恐らく無理だろう。運動はできないわけでは無いが得意ではない。後、疲れそう。


 その結果幼少期からアトリエで習っていたため描けるようになった絵を描ける部活に入ることにした。まあ、ハッキリ言ってしまうと美術部だ。少しパッとしないがまあいいだろう。


 担任に書類を貰ってそれを顧問に出せば終わりだ。よし、明日の予習は完璧だな。そんなふうに自画自賛していると。あいつからよばれた。


 俺は嫌々だが下に降りた。でも少しだけ、俺に対しての目が変わっているんじゃないかとも期待もしていた。


「座れ。お前の父親の持っていた癌による。遺伝的なものらしいな。」


「あ、ああ。短くてあと2年だと言われたよ」


「そうか。麻衣が今年受験生なのは分かっているよな。お前のせいで勉強に集中できないなんてことにならないようにしてくれ。話は以上だ。」


「は?じゃあ麻衣の受験が終われば死んでも構わないってことかよ」


「その通りだ。ハッキリ言って俺にとってお前は要らない存在だ。」


「あーそうかい、麻衣のためだから、1年は絶対に生きてやるよ。お前のためじゃない」


「それで、構わん。もう上がっていいぞ」


 あーあ。なんであんな奴に俺は少しでも期待してしまったんだろう。あいつは何が起きても俺を認めないなんてこと分かってただろ。そんなことを考えていた時。


「お兄ちゃん...」


「おー麻衣かどうしたんだ?」


「あの、ごめんね。あたしのせいでお兄ちゃんが責められて。」


「麻衣のせいじゃないよ。悪いのは俺と俺の親父とあいつだから。」


「私は!私はお兄ちゃんにずっと生きてて欲しい...お父さんがなんて言っても、私はお兄ちゃんが大好きだし、生きてて欲しい。だから...」


「ありがとう、麻衣。麻衣がそう言ってくれるだけで嬉しいよ。お兄ちゃんなんかちょっと弱気になってた。あいつの言うことなんて気にしないで残りの人生楽しむよ」


 明日から貴重な学校が始まるのに何を弱気になっているんだか。麻衣のおかげで明日から俺がするべきことを忘れないですんだ。


「よっし!絶対に俺は2年、生きるし。学校で青春して彼女も作ってやる。あいつに何を言われても気にしないで残りの人生を楽しむ!」


 俺は家中に聞こえるような大声でそう叫んだ。


 いつも注意する母も今日ばっかりは見逃してくれたくれた。もしかしたら助けて上げられない罪悪感とかもあったのかもしれない。


 そんなことを思いながら、俺は眠りに着いた。




「医者に告げられた俺の余命である2年後まであと725日」そう言って俺は制服を着て。片道1時間の登校のために朝食を食べて、家を出た。


 今までなら新しい人間関係に怯えながら登校していたが、今はもうそんな恐怖心はない。

 むしろ楽しみで仕方がない。そう思いながら俺は一番近くのドアから電車に乗り込んだ。
















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