笑っていて
空色
第1話 余命宣告
いつも朝は弱くて目が覚めてから30分ほども布団の中でうずくまっているのだが、今日は目がさめるとすぐに布団から出て立ち上がってカレンダーに向かった。そして
「あと725日」これが俺に残された時間だ。
遡ること5日前
俺はその日朝から体調が悪く学校を早退した。その帰り道に限界が来て倒れた所を近くにいた人が救急車を呼んでくれた。
次に目が覚めた時は病院のベッドの上だった。
「良かった目が覚めたんだ」と安堵の表情を浮かべながら、中学3年の妹が横に座っていた。
「受験もあって大変なのに迷惑かけてごめんな」
「ううん、お兄ちゃんが無事でよかったよ」
我ながらいい妹だと思う。容姿も整っていて家族思いで、真面目。俺と出来が違いすぎて尊敬する。
「
「じゃあ
「あたしも行くよ!」
俺が運び込まれた病院は川崎の中でもかなり大きい病院だからか、目的の部屋までが遠すぎる。妹と話しながら歩いていると。
「優太!」という聞き覚えのある声に呼ばれた。振り返ると想像通りそこに居たのは母親だった。
「母さん、ごめんね心配かけて」
「いいのよ。あなたが無事でよかった。倒れた時はもう目覚めないんじゃないかと心配で」
「そんな大袈裟だよ。ただの貧血かなにかだろ?」
原因も気になるので、さっき呼ばれた医者の部屋に向かった。扉を開けると待っていたのは30代後半くらいに見える、少し渋い感じのカッコイイ人がいた。
「どうも、今回優太くんの担当医の
丁寧でだけど、堅苦しくなく親しみやすいそんな印象を抱いた。
「先生今回僕が倒れたのってやっぱり貧血とかですか?」と聞いてみると、石澤さんはしばらく押し黙ってから。
「優太くんは今高校2年生だったかな?」と聞いてきた。
「あ、はい、先週から2年に上がりましたね」
「お母さんと妹さんも取り乱さないで聞いてください。優太くんの命は持って2年半、短くて2年でしょう」
「え、」あまりの予想外の出来事に、つい声が漏れてしまった。
「先生!冗談ですよね?息子の命があと2年なんて。だってつい先日まで元気にしてたんですよ?」
「先天性の癌でして、それも...かなり進行した状態の...ご家族の中に癌の方はいらっしゃいますか?」
「はい、この子の父親が...」
「恐らくそれが原因かと思われます」
「嘘...お兄ちゃんがあと2ね...」妹はあまりの出来事についに泣き出してしまった。
そういう俺もショックが大きすぎて
「少し考えさせてください...」
この一言が限界だった。
3人ともどんよりとした雰囲気で俺の病室まで帰った。幸い1人用の病室だったから周りの目などを気にせずに済んだ。
「少し1人になりたい」と言って2人には帰ってもらった
「私達は絶対にあなたの味方だからね」
「そうだよ!お兄ちゃん。なんでも相談してね。」
「ありがとう。母さん、麻衣。それじゃあまたね」
でも運は悪い方だったけど、まさかここまでとはね。自分の運のなさに最早笑えてきた。
今俺に残された選択肢はこの病院で治療をしてこの何もない白い病室で3年間の時を過ごす。それともう1つが治療をせずに残りの2年間の高校生活を楽しむか。
「こんなのもう決まってるよな」そう1人で呟いて笑った。最後くらい自由に生きてやろうじゃん。
俺は次の日石澤さんに治療を受けないことを話した。母さんと妹は少し戸惑っていたが、最後はあなたの好きにしなさいと許してくれた。
俺の退院日は翌日にに決まった。石澤さんから。痛み止めなどの薬の説明を受けて、月に1回はここに通うことを言われた。
治療を受けないとは言っても病人なのだからそれくらいはあたりまえかと思った。
学校に登校するのは2日後からの予定だ。
「さあ、何をしようか」自由に生きると言ったもののどうしたらいいか分からない。とりあえず普段人の目を気にして出来なかった、お洒落をすこししてみようと思った。
「高校生っぽい感じでセットしてください」そう美容院の人に伝えた。俺の容姿は自慢出来ることではないが悪くは無い、別に良いわけでもないのだけれど。
普段の陰キャ感がにじみ出る髪型がどことなくクラスのリア充感を出していた。美容院の方からワックスの髪のセット方法を教わった。その後、普段買わないようなお洒落な服を買って帰った。次の日の午前中はワックスとかの練習をして過ごした。
なら午後からは何をしていたかと言うと、あと2年間をどう過ごすべきか考えていた。
ベタだけど死ぬまでにやりたい100のことを作ろうと思った。
1.脱陰キャ
2.好きな本を全部買う
3.友達と5回は映画にいく
4.花火をみたい
5.部活に入っていい功績をのこす
6.テストで学年1位をとる
これくらい書いてからパッと浮かばなくなってきた。
うーん、いざ考えるとなかなか思いつかないな。あ、そうだ」
7.彼女を作る
書いてから恥ずかしくなって消そうかと思ったけど。もう最後だしいいかと思い、そのままにしておいた。
「とりあえずはこれくらいでしたいことが増えたらどんどん書いていこっと」
俺は椅子から降りてご飯を食べに下の階に降りていった。
リビングには母さんと妹がいたが、何だか空気が黒い張り詰めたような感じだった。自分の家族が長くないと言われればそうなるのも当たり前ではある。
ただ当の本人が楽しそうにしてるのを見てか2人も最後まで俺と楽しくすごす覚悟をしてくれたみたいだ。
俺はこの2人が好きだ。いつも家族の暖かさを感じさせてくれるからだ。ただしこの2人以外の家族。
そう父親は嫌いでしょうがなかった。
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