第31話 輝月と別れ

輝月の買い物から戻ると何故か中国軍と、それを率いてるチャン大佐が待っていた


「輝月、できるなら車に隠れてろ」


輝月はジープの後部座席(窓に黒いスモークが貼ってある)に乗ってるから運が良ければ気づかれないだろう


「伍長はすまんがデートと言うことにしてくれ」


助手席の奈菜伍長は、嫌な顔を全面に出したが文句は言わなかった


ジープは【ロプノール】の近くに停めると、チャン大佐と司令おやじにその部下達が駆け寄ってくる

俺と奈菜伍長は顔を見合わせた後、一緒に降りて後部座席の扉を隠す様に敬礼する


チャン大佐が早口で何か言ってるが早口な中国語で聞き取れない

首を傾げてるとチャンの部下が翻訳してくれた


「こちらは我が軍のチャン大佐だ。


『お前たちと一緒に宇宙人が居るのはわかってる。

直ぐに出せ、出して悪魔の詳細を吐け!!』


と大佐は言っておられる。」


多分、雰囲気から内容を推測すると、罵倒らしき言葉を排除して翻訳してくれたみたいだ

翻訳してくれた中尉は苦労しているのか、疲れた顔をしている


チャン大佐と、その部下達の後ろに片手で「すまん」とジェスチャーしてる司令おやじが居るので隠しても無駄だろう


チャン大佐、無能を晒す様で申し訳ないのですが、私には何を言ってるか分かりません!」


俺の言葉を翻訳してチャン大佐に伝えると、真っ赤な顔を更に真っ赤にさせて無理矢理、ジープの後部座席を開けようとする

それを止めると、また中国語で喚いたと思ったら腰の銃を取り出し俺に向けて、ジェスチャーで退けと伝えてきた


「少佐、チャン大佐の言う通りに輝月を出すんだ」


おいおい、名前まで喋ったら言い訳できないじゃないか!!


チャン大佐とその部下は一名(翻訳者)を除き非常に殺気立っており、部下も銃を取り出し威嚇する

一触即発な空気を感じ取ったのか、そもそも声が聞こえてたのか後部座席から輝月が出て来た


「こんにちは、チャン大佐。

敢えて日本語で話すけど、私がお探しの宇宙人の神代輝月かみしろきづきです。

私に何か用ですか?」


輝月を確認するとチャン大佐が視線で合図を出し、部下が取り押さえようとする

俺は咄嗟に輝月を庇おうとするが


「少佐、彼等の邪魔をするな!!」


司令官として父親おやじが命令する

俺は、悲しいかな「上官の命令は絶対」と言う軍隊の基本が身に染みてたので、命令に硬直し判断に迷ってる間に俺も取り押さえられてしまう


チャン大佐、目的は彼女だけのはずだ。

私の部下は離してくれないか?」


「それは出来ない。

彼は我々を妨害しようとした。

彼女を完全に確保し終わるまで動かないで貰う」


チャン大佐の通訳が何故、彼女を確保しようとしてるか説明してくれた


なんでも、俺達が戦闘した場所に悪魔のような人型ロボットが居て、自分たちはそれに敗北した

その時にリー准将と他多数の指揮官が戦死

現在の最高階級であるチャン大佐が指揮を執り、敗北の原因である輝月を確保して責任を少しでも軽くしたいらしい


彼女の尋問をするため酷いことはしない

我々は未知の兵器である、人型ロボットを「砂漠の悪魔」と仮称し、作った或いは運んだ可能性のある宇宙そらの交渉者から情報を知りたいだけだ


宇宙そらの交渉者?」


「まだ聞いていないのか?


今日の午前中に通信途絶してた月面基地から連絡が入り、隕石となって降りた場所には私の娘が居る。

隕石と共に宇宙そら来た娘を殺してはならない、連絡を途絶えさせてはならない。


彼女は国際宇宙連合軍の主力であり交渉者でもある。

私達は彼女を通じて地球人類が再び宇宙そらに上がれるように技術提供する用意がある。

忠告を無視し彼女に危害を加えることは許さない。

良い交渉相手を望む


なんて一方的に言ってきたヤツが居たんだ。

それで彼女を存在を知って確保しに来たって話だ」


輝月の父親は何ていうことを喋ってるんだー!!

そんな話をすれば中国が確保に動くのは当たり前じゃないか!!


「すまんな少佐、それに輝月君。

私も勝てない相手に無策で無謀な戦いはできないんだ」


【ロプノール】の周辺を見れば中国軍に完全に包囲されてる

輝月の護衛ロボットに敗北したらしいが、一個師団も居れば敗北したとしても俺達の部隊より何倍も多い


今争えば確実に負けて彼女は連れ去られる

居ないととぼけようにも、先に知られてるため司令おやじも誤魔化せなかったようだ


「そんなに心配しなくても多分、大丈夫ですよ」


輝月は特に抵抗していないので、俺のように地面に押さえつけられることも無く、後ろで手錠を掛けられる程度で済んでいる

俺の方を見ていた輝月は司令おやじに顔を向ける


「司令官、私の鋼鉄鎧メタルアーマーを一緒に持って行って構いませんね?」


「まだ解析してないのだが、渡さないとダメかね?」


「まだ、解析を一回もしてないのに、約束を反故にしてしまって申し訳ありません。

常に月と連絡が取れるように、私の近くに無いとダメなんです」


「約束は気にしなくていい。

私達も君を保護しきれなかったのだからね」


次に奈菜伍長に顔を向ける


「奈菜さんも私に良くしてくれて、ありがとう」


「………何だか嫌な挨拶ね。

自由になったら顔を見せなさいよ」


奈菜伍長は少し涙目になってる

最後に俺の方に顔を向けてくれた


「神谷少佐、私を発見、保護してくれてありがとうございました。

最初の出会いは衝撃的でしたが、私、神谷に会えて……、嬉しかったよ」


「本当に嫌な挨拶だな。

面会ぐらい出来るだろうから、その時に会えるだろ」


「うん……、そうだね。

みなさん、短い間でしたがありがとうございました」


そう言って彼女は中国軍に連行されていった


なんだか今生の別れみたいな挨拶をしていたが、一人寂しく連行されただけで大げさすぎると思ってたが、アレを見てそれは大げさでもなかったと思い知らされた

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