第29話 再生の謎

「ウソだろ……」


そう呟いて輝月を見る


彼女は此方に気づいたのか微笑む

…………うん、かわいい、ゲフンゲフン


中国軍の一個師団が敗北した

そんな信じられないニュースがエイル・ストゥルルソンから告げられた


「どういうこと?」


「テロ組織自体は殲滅されたんだけど、その時に私達が持ってきた3Dプリンターと随伴の護衛ロボットが奮戦しすぎてて撤退まで追い込んじゃったのよ」


「何それ、聞いてない」


輝月も聞いてないだと?


「護衛ロボットの性能が想像できなくて、当てにしない様にワザと内緒にしてたみたいよ」


おいおい、勘弁してくれよ

確かに軍隊の最小単位は分隊の10人前後(国や組織などで違いがでる)


随伴の護衛ロボットは9体

どのように戦ったのか知らないが、9体のロボットが一個師団を敗北に導いた


「何か秘密があるだろ?」


高性能なのは赤い鋼鉄鎧レッドアーマーの戦闘を見たから分かるが、それでも数で潰される

ロボットに核爆弾でも積んでるような秘密がないと納得できない


「……………輝月、貴女の鋼鉄鎧メタルアーマーは、まだ壊れてないのね?」


「うん、幸い壊れなかった」


「話していいよね? それとも輝月が自分で話す?」


「うまく説明できないと思うからお願い」


輝月が使ってる赤い鋼鉄鎧レッドアーマーには再生能力があると言う

詳しい原理はエイルも知らないが一定以上の温度で形が元に戻る性質を持つ合金を使っている

日本語では何て言うのか知らないそうだが、昔から戦車にも使われるらしい


「形状記憶合金か?」


「「それだ!!」」


エイルと輝月の声が被った

司令おやじが形状記憶合金について説明したら間違いないと言う


「つまり、再生するのを護衛ロボットが一個師団を倒した。

もしくは撃退したということか」


ここまで言われれば、再生するのを知らずに不意打ちをされたのは容易に想像できる


「それだけじゃ足りない」


「確かにそれだけじゃ、被害が少し増えるだけで終わってしまう」


俺と輝月が画面のエイルを睨むと


「わかってる話しますよ。 だから怖い顔は止めてね?」


その護衛ロボットにはAIが積んであり、輝月の命令に絶対服従であり、輝月と連絡が取れない場合は独自に考え行動する

今回のケースで護衛ロボット達が考えたのは、3Dプリンターを輝月以外の手から守ること


そのためにアラウィー戦線を殲滅し、中国軍を撃退した


「具体的には死んだ振りして敵の懐に入ってから中で暴れる

これだけでアラウィー戦線は壊滅したみたい

中国軍の方は中で暴れてからホバーの大型戦車を乗っ取って大暴れさせて撃退、こんな感じだよ」


司令おやじが手を上げ


「話は分かった、形状記憶合金の塊で出来たロボットが大暴れしてアラウィー戦線は壊滅。

中国軍はロプノールⅡを乗っ取られ、同士討ちで撃退された。


形状記憶合金は私も知ってるが、何故そんな値段の高い物を大量に使って作れたんだ?」


「地上とは価値が違う」


「そうそう、地上じゃ壊れたら直す、もしくは捨てるが当たり前だけど、宇宙そらじゃ殆どの場合、直すの一択。

材料が少ないのもあるけど、金属を作るには綺麗な水が必要。


その水は飲み水として使うのは勿論、酸素を作ったり、推進剤として使ったり

兎に角、使い道が多すぎて金属を作るのは後回しになったりするの」


そのため金属は不要な物から再利用されるが、その際に曲がったり凹んだりしたものは直さなくてはならない

品質的に叩いて直すなんて出来ないから、一度完全に溶かして作り直すことになる


その無駄を無くすために形状記憶合金を使うようになった

最初作るのは大変だが、一度作ると再利用して使いやすいので好んで作られていた


輝月が地上に降下することが決まると補給をどうするかと話し合われ、現地で材料を調達して作ればいいと結論がでた

次に壊れたときの修理についても話し合われ、全て形状記憶合金で作れば修理が楽になると採用される


護衛の人型ロボットも同じように修理が楽だからと形状記憶合金が採用されている


「勿論、昔の形状記憶合金と違って、ナノマシンで膜を作り覆うことによって更に使いやすくなってるんだから!」


「聞いただけで詳しいことは分ってなさそうだね」


露骨に輝月から目を逸らしてる


「なるほど、理解した。

マネしようとしてもコストの面で諦めざるを得ない」


司令おやじはそんなこと考えてたのかよ!!


「そんなこと考えてたの?」


エイルも同じことを考えたみたいで俺と同じツッコミを入れてる


「それよりこれからのことだ。」


あ、誤魔化した


「アラウィー戦線が壊滅したのが嬉しいが、中国軍が負けたのは我々に取って非常にまずい」


露骨な誤魔化しだけど、確かに中国が負けたことは輝月を隠した俺達にとって非常にまずい

輝月のことを最初から教えても変わらなかったと思うが、相手からはイチャモンを付けられればいいのだ

それこそ彼女が中国軍を撤退に追い込んだなどと言いかねないのが中国だ


「よく分からないけど、まずいなら護衛ロボットを遠隔操作で止めようか?」


「止められるのか?

それはいいけど、もう手遅れだ」


「中国軍は今どこに向かってる?」


タクラマカン砂漠を超えて反対方向のウルムチ方面なら考える時間がある

最悪、強行偵察で出た負傷者と一緒に本国に避難させればいいが、彼女の分の国籍やパスポートを用意するのに時間が掛かる


「残念ながら其方のホータン方面、多分目的地は貴方達の場所ね」


【ロプノールⅡ】を失ったから俺達が使ってる【ロプノール】を接収するのかもしれない


「考える時間も余りないか、少佐は午後からの仕事を青井少佐に押し付けろ。

少佐は午後から、奈菜伍長と輝月ちゃんの護衛について貰う」


万が一に輝月が襲われたりすると面倒なことになるから念の為に護衛を増やした

そういうことは分ってるが、二人と買い物デートに行くということに嬉しくて顔がニヤけるのであった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る