第26話 一時間後の報告

私が地球に降下して三日目の早朝

この日、奈菜伍長に体を強く揺すられ、起こされたことから始まった


「起きて起きて、起きなさーい」


「んぅー」


時計を見ると午前6時


「起きましたか? では、顔を洗って歯を磨いてください。」


言われた通り顔を洗い、歯を磨いて、最後にうがいをすると

机の上に二人分の食事が用意されていた


「うん、しっかり洗って目が覚めましたね?

では朝食です」


奈菜伍長と私の朝食があるけどメニューが違う

ご飯とおかずの奈菜伍長、私のはスープにパンだ


「パンはスープにつけて食べてね」


今日も胃に優しいメニューになってる

そのことに感謝して食べ終えた後、今日の予定を告げられた


「今日は町に買い物に出る予定ですが、その前に日焼け止めを塗りましょう」


町に買い物に行くのは分かる

そのために昨日は着る服を選んだ

【ロプノール】の外に出るから日焼け止めを塗るのも分かるけど


「裸になる必要はないんじゃないかな?」


そこまでしなくても肌が出る場所だけ塗ればいいんじゃないかな?


「ダメです。 ただでさえ輝月は色白なんですから、服の隙間から日が差さないようしっかり塗りますよ!」


ここは空調がしっかりしてるから裸でも寒くない

寒くないけど、裸になるのは同性でも恥ずかしいんだよ!?


抵抗はしたがあっさりと負け、為すがままに塗られてしまった

塗られたのは無香料タイプで、暑さを軽減するためか冷んやりする


「ふぅ、満足です」


全身に塗られたせいか、少し寒い

直ぐに服を着たが、臭いもべた付きも無いので問題ないはず


「出かける準備ができたし、そろそろ月基地に連絡しますか?」


日焼け止めのインパクトが強くて忘れてたが今朝も連絡した方がいい


「うん、出来るなら今の内に連絡しよう。」


私は今監視されてるが、宇宙そらからも監視されてる

町に行く時に見失わないよう連絡する必要がある


部屋の扉を開けて格納庫まで行こうとする途中で神谷にあった


「おはようございます」

「少佐おはようございます」


「おはよう。

月基地と連絡を取ってきた帰りか?」


何を言ってるんだろう

月基地と連絡を取ってきた帰りだと行く方向が真逆だ

そんなこと思ってると奈菜伍長が耳打ちしてくる


「こういう時の少佐は何かを誤魔化そうとしてる時ですよ」


ニヤニヤ顔をしている奈菜伍長

神谷は目の前で耳打ちしてたのでいぶかしんだ様子


「違います。 これから月基地に連絡してから町に行く予定です」


「そうです。 オシャレな服とか下着を買いに行く予定なんですが、もし良かったら来ます?」


大胆にも買い物に誘う奈菜伍長

これは奈菜伍長なりの気遣いだろうか?


「いやいやいや、流石に下着を買いに行くのに付いていくのはハードルが高い!」


動揺してるのか「いや」の数が多い


「いやだなー、冗談ですよ、冗談。 セクハラなど気にせず来るかと思ったんですが違いました?」


「当たり前だ!」


とツッコミが入る 


「うんうん、それぐらい元気な方がいいですよ少佐。

病院に行ってたからか辛気臭い顔してましたもん」


「もんって……」


言われてみれば確かに顔色は悪かったけど、私には分からなかった


「二人は仲がいいんですね」


「なんです、妬いてるんですか? 安心してください、ただの腐れ縁ですから」


「腐れ縁?」


「それはですね………」


奈菜伍長が言うには、軍に入った頃から何かと一緒になる機会が多かったと言う

神谷少佐は士官学校を好成績で卒業したエリートで、奈菜伍長は一般募集で入った

二人とも同期と言える時期に入ったが部署が違うため一緒になることは無いはずだけど、最初に神谷の担当オペレーターとして馬が合ったのが上に気に入られたのか、何かと一緒にされることが多い関係だった


「それは確かに腐れ縁ですね」


「でしょ、だから…」


「そうだ! 輝月は衛星を中継して月と連絡を取ってるんだよな?」


「そうですけど…」


話しを逸らすために衛星の話をしたんだろうが露骨すぎて嫌われますよ?

という顔をしたつもりだけど気づいてないっぽい


「それなら国境の動きとか分かったりするか?」


ここで真面目な話と察した奈菜伍長は黙る


「多分分かると思います」


「そうか、それなら国境の状況を偵察して貰えないか?」


国境を偵察する

軍事用の偵察衛星なら良くある使用方法だ


「何を知りたいの?」


それでも「偵察してこい」だけでは目的が大雑把すぎる

国境の何処を偵察するのか? 人を偵察するのか物を偵察するればいいのか分からない


私はいくつか質問をして神谷少佐の知りたい内容を把握する


中国政府は多分情報規制をしていて、中からだと他国や国境がどうなってるか分からない

情報を手に入れるには一度出るか、衛星で調べられる私に頼むしかない


その内容はオペレーション・メテオで出た影響を調べに来る他国の状況を把握すること


私も一枚噛んでるので嫌とは言えない

むしろ積極的に情報を集めたほうが良いだろう


神谷少佐の頼みを快く了承し、格納庫に向かった後、赤い鋼鉄鎧レッドアーマーでヘリポートに移動する

するとそこには前に来た時とは違う機材が並べられてた


「よう、少佐」


手を上げて呼んでいるのは此処の司令官だ


「司令、何やってるんでしょうか?」


あれ、少佐なのに知らされてないの?

と思ってたら案の定、司令官は


「おいおい、忘れて貰っては困るよ?

月基地と通信する際、出来れば私も連絡したいと言ってたじゃないか。

機材の都合で出来なかったがホータン市で調達できたから今準備してるんだよ」


と軽い注意をする


「もう少しで準備が出来るから待っててくれ」


それなら俺が彼女に頼んだことを司令おやじに伝える


「衛星を使うのは盲点だったが、調べたら分かるものか?」


まぁ、当然の質問だろう

ケスラーシンドロームが起きて全ての人工衛星は壊れた

地上ではそう言われているが当然生き残った物もある


それは低軌道より外側の人工衛星だ


比較的に多く生き残ったそれらの人工衛星は、暫く低軌道の人工衛星の代わりをして代替システムが出来たころに破棄された

それを私達、宇宙に取り残された人が改造して使ってたが、今は新しく作った別の人工衛星を使ってる


その新しい人工衛星の詳細は地上の人は知らない

……というか私も知らない


それなら百聞は一見に如かずで、実際に見せた方が早い


「やってみないと分かりませんが、多分可能です」


赤い鋼鉄鎧レッドアーマーから降りて、コードを接続し始める

こういう時の為に2P(2play)用のコードが在るので繋いでいく

コードの長さが足りないなどのトラブルはあったが10分ぐらいで接続が終わった


私はテレビ画面に普段使ってるアイコンが移ってることを確認


「それでは、今から月と通信を繋ぎます」


Enterキーを押したら繋がりエイルが姿を見せる


「こんにちはエイル、私達の映像は見れてる?」


「見えてないよ! カメラの位置変えた?

輝月のドアップで殆ど何も見えてないよー」


何度か調整して、やっと本題に入る


「うん、報告は分かったし、そちらの頼みも分かった。

でも、調べるのに時間は掛かるよ」


「具体的にはどのぐらい?」


「1時間くらいかな。

それと今分かってることを伝えるね」


神谷少佐の予想通り、中国が情報統制のは宇宙そらから確認が取れた

他国にはテロ組織があることを言い訳にして隕石の調査を拒否

日本の様に国際連合として援軍という体裁での調査も拒否され、国境で軍が足止めされてる


「そっちに来ようとしてる軍の規模までは分からないから後で調べとく」


「ありがとう。

意外と此方の状況を把握してるんだな」


褒められてドヤ顔で胸を張ったエイル

司令官と神谷少佐が礼を言って通信は終わる


そのあとで、司令官から携帯を支給され、一時間後にまた通信をすることになった



◇ ◇ ◇



一時間後

再びヘリポートに集まると通信を再開する


通信に出たのは前と同じでエイル


「あれエイル? 父さんは居ないの?」


「先生は今手が離せないから私で我慢してね」


なんでも中国政府が宇宙そらに居る人たちを認識したので交渉のための始めの挨拶をしてると言う


「確かにそれじゃ……、しょうがないね。」


まだ三日しか経ってないが環境が変わり過ぎてホームシックなのだろうか?

何となく寂しく感じる


「まずは、報告からするね。

司令官さん、始めに言っておくけど、私が報告する数字はあくまでも上空から見た数字で正確では無いことを念頭に置いてね」


「分かってる。

参考にする為の数字だ、それ以上でもそれ以下でも無い」


「先ずモンゴル軍は3000人規模、戦車80両、装甲車200台 鋼鉄鎧メタルアーマー450機

カザフスタン軍は5000人規模、戦車100両、装甲車400台、鋼鉄鎧メタルアーマー750機ね」


中国からテロ組織の規模でも聞いてたのか日本と人数が10倍ぐらい違う


「これが来れば俺達は情報提供だけで帰れそうだな!」


これが援軍に来れば規模が少ない日本は邪魔にならないよう後ろで支援してるだけになる

それこそ情報提供だけで帰らされるかもしれない

司令官が笑顔になるのも仕方ないことと言える


「うん、その……、嬉しそうにしてるとこ非常に言い辛いんだけど、中国軍が敗北しちゃった」


中国軍って昨日来てた人達だよね?

確か一個師団ほどでテロ組織の殲滅に向かったとか、それが敗退した?


「どういうこと?」


「テロ組織自体は殲滅されたんだけど、その時に私達が持ってきた3Dプリンターと随伴の護衛ロボットが奮戦しすぎてて撤退まで追い込んじゃったのよ」


「何それ、聞いてない」


本当に聞いてない

随伴の護衛ロボットなんて居たの?


「護衛ロボットの性能が想像できなくて、当てにしない様にワザと内緒にしてたみたいよ」


なんでも軍隊の最小単位は分隊

地上に降りるのは私一人だけだし、戦場で一人では如何に高性な鋼鉄鎧メタルアーマーでも死ぬだろう


せめて安全な場所に隠れられるように

で付けたのが護衛ロボット達だった


それが規格外と思えるほど高性能な物になっていて、

中国軍とテロ組織相手に無双してた


そんな問題にしかならない頭の痛い報告を聞かされた

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