第23話 情報収集

リー将軍が中国軍に戻り撤収作業が再開される

日の出は過ぎて暑くなり、効率が落ちてしまい終わったのが昼前になった


「やっぱり投車器の試射が時間かかったよな」


と愚痴ってるのは青井少佐だ


リー将軍が来たことで撤収作業が遅れてスケジュールが変わってしまった

「兵は神速を尊ぶ」と言うが、兵は遅れることを非常に嫌う

彼も軍で学んだ教育のせいか遅れることは練度が足りない証拠と捕えてしまう

故に、遅れた分を取り戻すために速度を上げることになるだろう


「ああ、これは道中の休憩時間が短くなる程度ですまないな」


スケジュールには余裕をもって考えてるため多少は融通が利くが数時間分となると、

無理すればどうにか帳尻を合わせられると言った感じだ

町に戻るだけなので無理する必要はないと思うが、他国の軍が町を通るには事前に連絡する必要がある

今回も先行して鋼鉄鎧メタルアーマー3機が連絡に向かっている

遅れる無能を晒すぐらいなら無理してスケジュールを合わす

それが軍隊だ


昼食はしっかり取ってから出発する

休憩は無しで速度を予定より10キロ上げて進み、夕方頃には目的のホータン地区ホータン市が見えて来た


鋼鉄鎧メタルアーマー隊、速度を落として進むぞ」


速度を落とし、町に入る1kmほど手前で停止し【ロプノール】だけ反転する

これは【ロプノール】が戦車としてはデカすぎて渋滞を起こすので、整備の時以外は基本的に砂漠に停めてるためだ

他は護衛に戦車2両を残しホータン空軍基地まで向かう予定になる


だけどその前に怪我人を病院に搬送だ


「重体の者から順に運べ!」


重体12人、重傷21人、軽傷36人の被害が出ている

全員、適切な処置をしているため悪化はしてないが本格的なことは出来ていない

用意された乗り物で各自病院を目指す

(全員を一か所で治療するには数が多すぎた)


俺は上官として部下が目覚めるまで病院で待機したいが、状況がそれを許さない

病院のテレビでニュースが流れてて、中国軍がテロ組織を攻撃するために一個師団がホータン市を出たことを告げてる

今日の夜か明日の早朝にでも攻撃が始まるだろうと告げているみたいだ

(中国語で放送されてるから文字と映像で判断してる)


明日までに目を覚ませばいいが、それ以降だと待機するのは無理だ


それより気になるのは、中国以外の国が動いてる様子が分からないこと

情報規制されてると思うが隣国のカザフスタンやモンゴルの動きが気になる


この二つの国は隕石があった場所から数百キロ離れてるが、

インドなどと違って山で遮られてなく道も繋がってる国だ

世界規模の隕石があったのだから現場近くの町に調査団やマスコミが来ていておかしくないのだけど、ニュースでは流れてない


そこに部下の一人がやってきた


「お疲れ様です、隊長は今大丈夫ですか?」


「大丈夫だが、人の居ない場所に行こう」


病院の待合室から駐車場に移動する


「ここなら大丈夫だろう。

それで他国の様子は分かったか?」


彼は中国語が話せて文字も読めるため、情報収集させてた部下だ


「いえ、他国の動きは全く分かりません。

ほぼ確定で中国政府が情報遮断してますね。


代わりと言っては何ですが、リー将軍がテロ組織のアラウィー戦線撃滅に動いたことばかり話題になってました。」


「分かった、引き続き何か分かったら教えてくれ」


このことで分かったのは中国政府が情報遮断し、アラウィー戦線を中国単独で撃滅するために動いたことだ


隕石落下地点を調べるにはアラウィー戦線をどうにかしないと行けない

ウイグル族のことを考慮しても動いて良い大義名分が出来たので動いた

確実に殲滅できるだろう一個師団で向かい、戦果をアピールするために事前に情報を撒き、

本来ここに国際連合に恩を売って情報を多く集める


情報を集めて手柄を上げて昇進する

それがリー将軍の目的なんだろう

中国の様な軍閥ではよくあることだ


そこで僅かに砲撃音が聞こえた

打ち上げ花火の破裂音を小さくした感じの音だ

ここからアラウィー戦線の所まで結構あるが障害物が無い分、よく聞こえるのだろう


「戦闘が始まったか」


誰も近寄れないから中国軍が戻るまで詳しいことは分らない

明日になれば分かるだろうと、この日は病院に泊まった


次の日、待合室の椅子で寝ていた俺は、携帯のアラームで起きた

軍服を着てるせいか注意はされなかったが悪目立ちしたかもしれない

治療を受けた部下は、まだ目を覚まさないので他の部下に任せることにして、俺は【ロプノール】に戻った


「おはようございます」

「少佐おはようございます」


通路でばったりと奈菜伍長と輝月に出くわす


「おはよう」


そういえば昨日、本を持ってくる約束してすっぽかした

そのことを謝ると奈菜伍長が許可を取ってタブレット持ってきたので大丈夫だったと言う

奈菜伍長には借りができたな、今度機会があれば返そう


「月基地と連絡を取ってた帰りか?」


と言うと何故か奈菜伍長が輝月に耳打ちする

何を言ってるか聞こえないが良いことではないだろう


「違います。 これから月基地に連絡してから町に行く予定です」


「そうです。 オシャレな服とか下着を買いに行く予定なんですが、もし良かったら来ます?」


ニヤニヤ顔で言ってくる奈菜伍長

絶対に来ないと確信してる顔だ

その手の話はセクハラになるのだから勘弁してほしい


「いやいやいや、流石に下着を買いに行くのに付いていくのはハードルが高い!」


動揺したのか「いや」の数が多いが本人は気づいてない


「いやだなー、冗談ですよ、冗談。 セクハラなど気にせず来るかと思ったんですが違いました?」


「当たり前だ!」


とツッコミを入れる


「うんうん、それぐらい元気な方がいいですよ少佐。

病院に行ってたからか辛気臭い顔してましたもん」


「もんって……」


気を使われるほど辛気臭い顔してたのか、まだ顔に出やすいのは治らないな


「二人は仲がいいんですね」


「なんです、妬いてるんですか? 安心してください、ただの腐れ縁ですから」


「腐れ縁?」


「それはですね………」


女三人寄れば姦しいと言うが、女二人でも十分姦しいと思う

二人が仲良くなったのは良いが通路で喋ってると怒られる

(夜勤で寝てる隊員も居る)

話を逸らして移動しないと、と考え…………、いい案が浮かんだ


「そうだ、輝月は衛星を中継して月と連絡を取ってるんだよな?」


「そうですけど…」


それが何か?という顔をしてるが、衛星これを利用しない手はないだろう


「それなら国境の動きとか分かったりするか?」


ここで意味を察した奈菜伍長は黙る


「多分分かると思います」


少し詳しく聞くと、昨日の連絡したときに中国軍が来ることも分かったと言う


衛星を失って100年以上経つ

昔に使っていた方法イメージも通信、科学、地球観測(気象衛星)など平和的利用ばかり思い出す

だから偵察などという軍隊における基本的な衛星の使い方も失念していた


「そうか、それなら国境の状況を偵察して貰えないか?」

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