第19話 二日目

早朝、日が出る2時間前と比較的早い時間に起きた

今日はまだ日が暗い内にやることがある


軍隊の始まりは朝、ラッパの音と共に始まり、秒を争う速さで集合して点呼を取るところから始まる

遅れた(点呼に間に合わない)者は朝から罰ゲーム(筋トレなど)をするのだが


………うん、寝坊したのは居ないな


次に朝食なのだけど、俺は他の隊員たちとは別に輝月と一緒に朝食を取ることになってる

朝から好きな者と一緒に取ることになってるのは奈菜伍長の差し金では無い

単純に奈菜伍長が忙しいだけだ


俺は輝月の部屋の前に立ち、コンコンと扉を叩くが反応がない

朝早いから起きていないのだろうが、ここは軍隊なので朝食のタイミングなど殆ど一緒だ

これは慣れてもらうしかないが、朝から女性の部屋に入るのは躊躇われる

こんな時に奈菜伍長が居たらと思うが彼女は朝のミーティングに出てるため居ない


仕方ないのでドアの下から容器ごと朝食を入れ、俺は通路で朝食を取った

食べ終わり食器等を戻しに行く前にドアが開き、輝月と目が合う


「おはようございます」


「おはよう。 朝起きるのは苦手か?」


「そんなことは無いけど、今日は起きるのが早すぎる」


今は現地時間の午前4時半ぐらいだ

確かに早いだろうが、これ以上遅くなると撤収作業に影響がでる


「そりゃ、今日はここを撤収する。

暑くなる前に撤収準備を終えないと地獄だからな」


「…………なるほど、少し待っててください。

この後、大丈夫ですよね?」


大丈夫と言うか輝月の監視の為に居るから時間は空いてる

そのことを伝えると、朝食の後で月基地に連絡すると言う

月基地との連絡は司令官も気にしてたので早いうちに録画を取っておきたい


輝月の朝食を待ったあと、俺達は格納庫の赤い鋼鉄鎧レッドアーマーの所に来た


「月基地との通信で必要なのは赤い鋼鉄鎧これだよな?

やっぱりそれは一人しか通信できないのか?」


「ええ、鋼鉄鎧メタルアーマーに乗り込んでハッチを閉めないと通信できないから一人しか通信できないわ」


二人以上で通信する場合は外部装置を追加しないといけないらしいのだが、規格が100年以上前の物で使える物が無かった


「そうか、他に赤い鋼鉄鎧レッドアーマーに必要そうな物を後でリストにして渡してくれ。

町に戻る時にできれば調達しておく」


「了解」


彼女は赤い鋼鉄鎧レッドアーマー乗り込みハッチを閉めた


「それでどこで通信すればいいかな?」


「付いて来てくれ、甲板にヘリポートがある」



◇ ◇ ◇



【ロプノール】甲板のヘリポートには何やら機材が用意してあった


「何これ?」


「レーザーを可視化して見る装置だ。

信用してない訳じゃないが念の為に用意した」


ついでに【アイギス】で上空に何か浮かんでないかチェックするが何もない

赤い鋼鉄鎧レッドアーマーはヘリポート中心まで歩くと


「通信を開始するけどいいかな?」


と聞いてきた

準備は出来てるので許可を出すと外部スピーカーを切った様で何も聞こえなくなった


レーザー通信は上空を向いていて敵と通信してる様子は無い

そのことに安堵しつつ、声を掛ける


「外部の声は拾ってるか? 通信状態はどうなっている?」


「うるさい、ちょっと黙ってて」


こちらの声は聞こえてる様で安心した

何もないだろうが急に声が聞こえなくなるのは不安になってしまう


その後、暫く通信してたが終わったのか赤い鋼鉄鎧レッドアーマーがこちら側に向く


「通信は成功、映像も問題ないから録画も出来そうだけど……、映像関連も100年以上経っていれば変わってるよね?」


勿論変わってる

何度か技術革新が起きて記憶媒体も変わった

だから輝月が使ってる物を渡されても再生できない

【ロプノール】は偶々旧型だったため読み込みはできたが、近代化改修の際に使わない古いデータ形式の物は再生できなくなっていた


「その辺も含めて町に戻った時に買い出しかな」


彼女が月と連絡した内容は、昨日の出来事や俺達に保護されたことを報告し、通信や監視衛星のデータなどを貰ったらしい


「通信は分るが監視?」


「私の現在位置と状況を常に監視してるのよ」


なんでも通信に使ってる衛星が輝月の通信範囲から居なくならない様、入れ代わり立ち代わり衛星を通信範囲に入れる関係上、彼女の位置を確認する必要があるらしい


そんなものかと納得して赤い鋼鉄鎧レッドアーマーを格納庫に戻し、部屋に戻ったころには【ロプノール】の通路で人とすれ違うことが多くなっていた

それは撤収作業が終わり【ロプノール】内に帰ってきたことを意味する


彼女を部屋に送り届け、ついでに暇つぶし用の本を持ってくることを伝え部屋を離れる

その際にリクエストを聞くと


「英語かロシア語で書かれてるタクラマカン砂漠ここの旅行ガイドがあればお願い」


と言うような内容が返ってきた

「多分無いだろう」と答えたら

「無いなら参考書でも何でもいいから読めるのお願い」

と言ってたので了解と答え、食堂の雑誌置き場を見るが日本語の物ばかりだった


「結構な安請け合いしてしまったな」


と愚痴るが仕方ない

後は個人が持ってる本か、司令おやじが下調べの資料として持ってる本に期待するしかない


とりあえず、軽い報告を兼ねて司令室を尋ねるが居ない

次に艦橋を尋ねると司令おやじは居たのだが、通信中らしく話しかける雰囲気では無い


本来の撤退作業だけなら話しかけるのを躊躇わないが、艦橋の先にある景色を見て言葉が止まってしまう


そこに居たのは【ロプノールⅡ】

この【ロプノール】の後続機であり最新型の局地用大型ホバー戦車だ

その両脇を固めるように大量の戦車が並走している


さらに後ろにはパッと見で分からないぐらいの装甲車と鋼鉄鎧メタルアーマー

それに十数台の輸送用大型トラックまである


「ん、少佐か」


ここで艦橋に入ってきた俺に気づく司令おやじ


「通信してたみたいでしたが、邪魔してしまったでしょうか?」


あの1個師団と連絡を取っていたのを邪魔したなら問題だ


「大丈夫だ、問題は無い。

目の前の軍団あれは昨日の隕石を調査しに来た中国軍だ。」


司令おやじの説明では、撤退作業中に彼等を発見

【ロプノールⅡ】と使ってる戦車から中国軍と断定し連絡を取っていたのだが、向こうの将軍が日本語は喋れるが横暴な人で交渉に手間取ったと愚痴ってた


「それで、何か報告か?」


輝月が月基地に連絡をしたことと、通信を録画しても再生できる物を用意しないと見れないことを報告し、彼女にために英語かロシア語の本を探してることを告げる


「そうか、分かった。

英語のガイドブックなら司令室に有ったはずだ、勝手に持って行っていいから彼女を外に出すな」


この言葉から司令おやじは輝月を中国軍から隠すことにしたらしい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る