第16話 初めての夜景

夕方、火が沈む頃に奈菜伍長に起こされた


「神代さん、起きました?

寝てるところすみませんが司令官がお呼びです。

準備ができたら案内しますので呼んで下さいね」


そう言って奈菜伍長が扉から出て行った


この部屋に窓は無い

そんな私が外の様子を知ることが出来たのは、机の上に置かれた時計と日の出と日没の時間表が貼り付けられたからだ

今からでも日没の風景は見られないだろうかと思うものの、呼び出しを受けてるなら優先するほどのことでは無いと思い直す


他にも机に置かれた鏡やくしを使い

手早く準備を整えると奈菜伍長を呼んで司令室に案内される

中には司令官と副艦長、あと初めての人が一人


彼は私に気づくと前に出て挨拶をしてくれた


「どうも初めまして、私は先ほど合流した補給分隊の隊長をしてる青井健吾あおいけんご少佐だ。

よろしく!」


「ご丁寧にどうも、私は国際宇宙連合所属の鋼鉄鎧メタルアーマーパイロットの神代輝月かみしろきづきです。

こちらこそ、よろしくお願いします」


お互い挨拶をして握手を交わす

そのまま近くに在る椅子に座り司令の呼び出した理由を説明してくれた


それは私の紹介と彼の紹介と、私の処遇を相談するためだ

詳細を聞く前に司令官は自分たちの状況を話してくれた


500人しか居ない部隊で敵は推定1万以上と分かってるにも係わらず援軍は貰えない

敵支配地域に強行偵察を行うことを決定し、【ロプノール】を中国から借り受け鋼鉄鎧メタルアーマーを収納し、残りは味方の勢力圏ギリギリに補給の後方部隊として置いて、最小限の人数で強行偵察開始


最初の方は上手くいってたが途中から罠に誘導され戦闘を行ってたところで、隕石が衝突し部隊は半壊

幸いにも敵基地の入り口を発見したことで撤退できるようになった


それが彼等の状況


司令官が話してくれたなら私の状況も話さなければならない

既に尋問で一度話しているが掻い摘んでもう一度話す


「地球と分断された月基地、エネルギーは有るが有機物がない

それでも100年以上がんばったが地球の物資を求める声が強くなり

宇宙開発を再開できるように交渉するため私が地上に降下した


具体的には地上からケスラーシンドロームで出来たデブリの膜を突破する方法と、それに伴う技術を教えに来た

これをレーザー通信で方法を教えても別のことに技術を使うか、料金を踏み倒される可能性がある

そのための交渉であり、これが出来なければ私は地上で死ぬしかない


簡単に言えばその技術と引き換えに物資を貰う


それが私の目的であり、帰還方法でもある

そのため先ずは交渉できる国を探す途中で、ここの捕虜になったのが私の今の現状」


私の処遇は此の場を撤退した後で本国に問い合わせてから決まるが、今なら司令官の一存でどうにか出来だろう

なので可能な限り目的に合うよう交渉するする思ってたが


「希望があるなら聞こう」


先に司令官の方から交渉を持ちかけられた

そこで赤い鋼鉄鎧レッドアーマーの解析を手土産に幾つか条件を飲んでもらうことにした


1.一日最低一回は月と連絡を取らせること


2.赤い鋼鉄鎧レッドアーマーの解析は必ず私が居る場所で行うこと


3.可能なら3Dプリンターを回収、もしくは破壊すること


4.私を他国に引き渡す場合は、アメリカ、ロシア、中国、インド、EU又はフランス(これら全て宇宙先進国)に渡すこと


5.隕石から拾った物で使える物がある場合は私に譲ること


この条件で納得したのか直ぐに書類を用意し始めた

もっと条件を足しても大丈夫そうだが、今思いついたのはそれが全てだった


特に一番目の条件は必須だったので、それだけでもよしとしよう


その後、龍野少佐が呼ばれ、青井少佐が今日の出来事を説明

司令官が私のことを説明し、赤い鋼鉄鎧レッドアーマーの戦闘映像を見る


遠くから客観的にみると凄い動きをしてる

必死だったとはいえ、1Gの初起動であの機動は無茶だったな

そんなことを考えていたら司令官がさっき決まったことを龍野少佐に伝えていた


「解析の報酬として可能な限り彼女の要求は呑むつもりだが、それでいいかな?」


「私はそれで構いません。

赤い鋼鉄鎧レッドアーマー解析はその予定なので問題ないです。

3Dプリンターの件は出来れば捜索して欲しかったですが、無理を言って皆さんを危険に晒せません。

司令官がその様に判断したなら従います」


「よし、それでは撤収作業に入る。」


副艦長が物資の詰め込みを報告し、司令官が撤収時刻を通達する


「「了解」」


青井少佐と龍野少佐が出て行った

私も続こうとするが司令官が引き止める


「なんですか?」


「今日は月に連絡しなくていいのか?」


もう外は暗くなりレーザー通信を行うと光で目立つため撤収するならしない方がいい


「大丈夫です。明日連絡させてもらえれば十分ですから」


そのことを聞いて残念そうにする司令官

聞くと月と連絡する際、映像を受信できるなら録画して上層部に伝えたいらしい

それは願っても無いので此方からお願いしたいぐらいだけど映像は受信できるか分からないと伝えた


そもそも地上に降下する際に壊れてる可能性があり、壊れてなかったとしても音だけの可能性もある

他にもいくつか確認され、必要な物が在れば奈菜伍長に言うようにと言われた


だけど今の私がしたいのは外の景色を見ることだ

これは奈菜伍長に言っても用意できないだろう

許可を出すだろう司令官は目の前にいるので聞いてみると艦橋に案内され、そこからは外を一望できた


外の日が沈んだ砂漠では夜の幻想的な風景が広がっていた


人では無いが人型をしてる鋼鉄鎧メタルアーマーが火を焚いている風景は旅の情景を連想させるし、見飽きたはずの星空は宇宙から見るのとは別の風景を写してるように綺麗だった


「ありがとうございます。」


私はこの風景が見たくて地球に降りた


これから嫌なこと、大変なこと、楽しいこと、色々あるだろう

それでも最初となる日にこれを見た喜びはこれからの原動力になるだろう

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