第6話 私の戦場

「しまった!? 早くハッチを閉めてくれ!!」


「?」


言われた通りハッチを閉めるが、この人は何がしたいのだろうか?

ハッチを開けたあと「結婚してください」とか言ったらハッチを閉めろだ、意味が分からない


そもそも、私の様な宇宙で暮らしてきた者は結婚という文化は100年近く前に失われてしまった


狭い宇宙空間で二人っきりになれる場所自体少なく、子供を産むにも人工授精だけだし、低重力の影響を排除するために【ゆりかご】という重力部屋で産むまで過ごさなくてはいけない


彼氏彼女や夫婦の甘い関係になる余裕がない世界で過ごすうちに結婚しないことが普通になってしまった


そんなことを考えてたら自動でレーザー通信を開始

同時に着陸地点の情報を貰うが、想像してたより酷い状況で酷い場所に着陸したらしい


「ここは砂漠の戦場で、着陸時に鋼鉄鎧メタルアーマー以外全ての物資が拡散。

戦ってるのはテロ組織と日本の国際軍で目の前にいるのは装備から日本軍の物ね」


OFFにしてた外部スピーカーをONにしてから話しかける


「ねぇ、そこの……龍野さん」


「何だ?」


フルネームで聞いたからか、ついタツノコと呼びそうになった

気を付けないとね


「(結婚の)返事は後で、それより鋼鉄鎧メタルアーマーのカメラが壊れて外が殆ど見えない、今どうなっているの?」


ハッチを開けて見た、あの景色の中には私の荷物は見当たらなかった

食糧や水はまだいい、否、良くないけど有っても悪用はできない


問題は3Dプリンターだ


ケスラーシンドロームが起こる前に作られた100年以上前の旧式だが、データ解析されるとまずい

あれは地球上のあらゆる場所に対応できるように出来ている耐久性抜群で、月面基地の建設にも使われた

あれが有れば地球上にある殆どの場所で防空基地が出来てしまうし、

武器も作れてしまう


「ここ、敵地のど真ん中じゃん」


マジですか!!

ボソっと聞こえないつもりで言ったかもしれないけど聞こえてるよ

聞かれて不味いことはスイッチOFFにしてから喋ってほしい


状況を把握したのか龍野さんの鋼鉄鎧メタルアーマーがこちらに向く


「簡単に説明すると、ここは戦場で俺達は敵基地の目の前に居る。周りに味方は居ないし隠れるぞ」


隠れる? なんで100年以上前の知識しか無い私達から見ても旧式の戦車相手に隠れなければいけないのだろう?


「どうした? 早く隠れないと!!」


「無理、私の外装は目立つ全身真っ赤オールレッド、一緒に隠れたら見つかるよ」


このカラーは宇宙から目立つ様にしてるから見つかって当然で、隠れることを一切考慮してない


「じゃぁ、どうするってんだ!!」


どうもしない、ここで投降するに決まっている

そもそも私が鋼鉄鎧メタルアーマーで地上に降りたのは低重力障害でパワードスーツの補助が必要だったのは勿論、戦場に着陸しても大丈夫なように一騎当千の鋼鉄鎧メタルアーマーを用意した


ケスラーシンドロームが起こる前にあった旧式戦車なら近代化改修してても本来なら余裕で戦えた

戦えたのだけど、今乗っている私の鋼鉄鎧メタルアーマーはカメラが壊れてしまった


敵地で目を失ったら置いて行かれるし、隠れようにも砂漠の砂で足跡が隠せない


「気づいた? この場を乗り切るには彼方と私のどちらかが囮になるしか無い。

この場合、味方が居ない私が逃げても意味ないから彼方が逃げるべき」


「ダメだ、囮は俺がなる。貴女の様な美人をテロ組織に渡したらどうなるか分からない」


「私の鋼鉄鎧メタルアーマーはカメラが壊れてる。とてもじゃないけど一人で逃げ切るのは無理」


「だが女性を、好きな人を囮になんて出来ない!!」


「大丈夫、捕虜になっても協力的なら酷いことはされないし、身を守る切り札もあるから安心して」


最悪の場合、を呼ぶことになるけど捕虜になる可能性も考慮されてたから大丈夫


「私は大丈夫って言っても聞かなそうだし、これを渡しとくね」


念の為、3Dプリンターが龍野の方に渡ってたことを考えてデータを渡すことにする


「それは私の写真付きプロフィールデータと3Dプリンターのデータ。

それを上の偉い人に渡して」


データには私が地上に降りた目的の一つが入っている

それを目にすれば、詳細な情報を聞き出すために絶対私を助ける


これが届けば私は安心して捕虜になれる


「おい、これから死ぬみたいじゃないか!!」


「大丈夫、結婚の返事を返すまで死ぬつもりはないわ」


「!!」


「さぁ早く行って!!」


龍野さんは私への思いを振り切るように、一直線に味方のもとへ走った

その後から戦車のキャタピラの音が聞こえてくる


私は鋼鉄鎧メタルアーマーの非常用の小窓を開き外を見ると、近くにある穴から戦車が出てくるところだった


「Hello, can you speak English?(こんにちは、英語は話せますか?)」


鋼鉄鎧メタルアーマーの手を上げ、まずは英語で話しかけてみる

後ろで龍野が逃げてるけど、私が居るから追いかけないだろう


ここからが私の戦場だ

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